配偶者の税額軽減とは?1億6,000万円まで非課税。ただし使い切ると損をします
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超/税務調査率1%未満。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年8月10日 最終更新日:2026年8月10日
【結論】強力な制度ですが、「限度いっぱいまで使う」のが正解とは限りません
配偶者の税額軽減とは、配偶者が相続した財産のうち「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは相続税がかからない制度です。
非常に強力な制度で、これを使えば一次相続の納税額をゼロにできるケースも珍しくありません。
しかし、限度いっぱいまで使うと、多くの場合そのぶん二次相続の税額が跳ね上がります。「使うか使わないか」ではなく「どこまで使うか」を考える制度です。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 非課税になる範囲 | 1億6,000万円 または 配偶者の法定相続分相当額 のいずれか多い金額 |
| 使える人 | 戸籍上の配偶者のみ(婚姻期間の長短は問わない。内縁関係は不可) |
| 使うための条件 | 相続税の申告書を提出すること+原則として遺産分割が確定していること |
| 注意点 | 税額がゼロでも申告は必要。申告しないと適用されません |
| 最大の落とし穴 | 限度まで使うと二次相続で税額が増える。合計で見ると損をすることが多い |
配偶者の税額軽減とは?
配偶者が実際に取得した財産の額が、次のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税はかかりません。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分に相当する金額
配偶者の法定相続分は、他の相続人が誰かによって変わります。
| 他の相続人 | 配偶者の法定相続分 |
|---|---|
| 子 | 2分の1 |
| 父母(直系尊属) | 3分の2 |
| 兄弟姉妹 | 4分の3 |
| いない(配偶者のみ) | 全部 |
たとえば遺産が10億円で相続人が配偶者と子の場合、配偶者の法定相続分は5億円です。
1億6,000万円より多いので、5億円までは配偶者に相続税がかかりません。
逆に遺産が1億円であれば、法定相続分は5,000万円ですが、1億6,000万円のほうが多いため、
遺産すべてを配偶者が相続しても相続税はゼロになります。

使うための3つの条件
条件1:戸籍上の配偶者であること
婚姻届を出している配偶者だけが対象です。 婚姻期間の長さは問われません。
相続開始の直前に入籍した場合でも適用されます。
一方、内縁関係(事実婚)のパートナーは適用を受けられません。 これは相続権そのものがないためです。
条件2:相続税の申告書を提出すること
この制度は「申告することが適用の条件」です。
軽減を適用した結果、納税額がゼロになる場合でも、申告書を提出しなければ適用されません。
「税金がかからないなら申告も不要だろう」と考えて申告しないと、後から本来の税額を課されます。
これは実務で最も多い誤解のひとつです。
条件3:原則として遺産分割が確定していること
申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割が成立していることが原則です。
「配偶者が実際にいくら取得したか」が決まらないと、軽減額を計算できないためです。
ただし、間に合わない場合の救済措置があります。
申告期限までに分割できないときは、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付します。
その後、3年以内に遺産分割が成立すれば、更正の請求によって軽減を適用できます。
この書類を出し忘れると救済されないため、未分割で申告する際は必ず添付してください。
具体例:遺産1億円のケース
前提:父の遺産1億円/相続人は母・子2人(計3人)
相続税の総額を計算する
- 基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 課税遺産総額:1億円-4,800万円=5,200万円
- 法定相続分で按分:母2,600万円/子1,300万円ずつ
- 各人の税額:母340万円+子145万円×2=相続税の総額630万円
パターン別の一次相続の納税額
| 母の取得額 | 母の取得割合 | 母の税額 | 軽減後 | 子の税額 | 一次相続の納税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1億円(全部) | 100% | 630万円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 5,000万円 | 50% | 315万円 | 0円 | 315万円 | 315万円 |
| 0円 | 0% | 0円 | — | 630万円 | 630万円 |
母の取得額はいずれも1億6,000万円以下なので、母の税額は必ずゼロになります。
一次相続だけを見れば「母が全部相続する」が最も有利です。しかし、話はここで終わりません。
最大の落とし穴:使い切ると二次相続で跳ね返ります
配偶者の税額軽減が使えるのは、配偶者が存命の一次相続だけです。
母が亡くなったときの二次相続では、この軽減は一切使えません。
さらに二次相続では、
- 法定相続人が1人減るため、基礎控除が600万円下がる(4,800万円→4,200万円)
- 母が相続した財産に母自身の財産が加わり、適用される税率が上がる
という条件が重なります。
先ほどの例で、二次相続まで含めて計算すると
(母の固有財産はゼロ、相次相続控除は考慮しないという前提での試算です)
| 一次相続 | 二次相続 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 母が全部(1億円)相続 | 0円 | 770万円 | 770万円 |
| 母が5,000万円相続 | 315万円 | 80万円 | 395万円 |
| 母は相続しない | 630万円 | 0円 | 630万円 |
最も税額が少ないのは「母が一部だけ相続する」パターンです。
母が全部相続した場合と比べて、合計で375万円の差が生まれました。
注目していただきたいのは、「全部」も「ゼロ」も最適ではないという点です。
一次相続で税金を払いたくない一心で配偶者に寄せると最も高くなり、
かといって配偶者をゼロにしても最適にはなりません。
最適解は必ずその中間にあり、財産額と家族構成ごとに違います。
詳しい仕組みは 二次相続とは?配偶者が全部相続すると損する理由 で解説しています。
判断のために確認すべき5つのこと
配偶者の税額軽減をどこまで使うかは、次の情報が揃わないと決められません。
| # | 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 1 | 配偶者自身の財産 | 二次相続では配偶者の固有財産も課税対象になります。ここを把握しないと試算が成立しません |
| 2 | 配偶者の年齢・健康状態 | 一次相続から10年以内なら相次相続控除が使えます。期間の見通しで結論が変わります |
| 3 | 配偶者の生活資金 | 節税を優先して取り分を減らしすぎると生活が立ち行きません。ここが最優先です |
| 4 | 子の住居の状況 | 子が持ち家をお持ちだと、二次相続で小規模宅地等の特例が使えません |
| 5 | 財産の値上がり・収益性 | 値上がりしそうな財産や賃料収入を生む財産を配偶者が持つと、二次相続の課税財産が膨らみます |
よくある質問
Q1. 配偶者の税額軽減は使わないほうがいいのですか?
A. いいえ、使うべきです。 ただし「限度額いっぱいまで使う」のが最適とは限りません。
上の例のように、軽減を一部だけ使うのが最も有利になるケースが多くあります。
「使うか使わないか」ではなく「どこまで使うか」を考えてください。
Q2. 婚姻期間が短くても使えますか?
A. 使えます。 婚姻期間の長短は要件ではありません。相続開始の直前に入籍した場合でも、
戸籍上の配偶者であれば適用を受けられます。ただし内縁関係(事実婚)の場合は適用されません。
Q3. 税額がゼロになるなら申告しなくてもいいですか?
A. いいえ、申告が必要です。 配偶者の税額軽減は「申告することが適用の条件」です。
申告しなければ軽減は適用されず、本来の税額を課されます。非常に多い誤解ですのでご注意ください。
Q4. 遺産分割が10か月以内にまとまりそうにありません。どうすればいいですか?
A. 「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付して、いったん未分割のまま申告します。
その後3年以内に分割が成立すれば、更正の請求によって軽減を適用できます。
この書類の添付を忘れると救済されないため、未分割で申告する際は必ずご確認ください。
Q5. すでに母が全部相続してしまいました。もう手遅れですか?
A. 一次相続の分け方は変えられませんが、二次相続に向けた対策はまだ可能です。
生前贈与(暦年贈与・相続時精算課税)、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人)、
不動産の組み替えなど、お母様がご存命のうちにできることは残っています。早いほど選択肢が多くなります。
Q6. 配偶者が財産を隠していた場合はどうなりますか?
A. 仮装または隠蔽していた財産については、配偶者の税額軽減は適用されません。
税務調査で申告漏れが判明した場合、その部分には軽減が使えず、加算税・延滞税も課されます。
名義預金など、意図せず申告漏れになりやすい財産もあります。申告前に財産をすべて洗い出すことが重要です。
まとめ
- 配偶者の税額軽減は「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い額まで非課税にする制度
- 使えるのは戸籍上の配偶者のみ。婚姻期間は問わないが内縁は不可
- 税額がゼロでも申告は必須。申告しないと適用されない
- 分割が間に合わないときは「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する
- 限度いっぱいまで使うと、二次相続で税額が跳ね上がる
- 遺産1億円・子2人の例では、分け方の違いで一次と二次の合計に375万円の差が出た
- 判断には配偶者の固有財産・年齢・生活資金・子の住居状況・財産の性質の確認が必要
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監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
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