未分割のまま申告期限を迎えたら|「3年以内の分割見込書」で特例を残せます
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年9月19日 最終更新日:2026年9月19日
【結論】間に合わなくても、申告はしてください。紙1枚で特例が残ります
「話し合いがまとまらないので、申告できません」
これは、最も避けてほしい対応です。
遺産分割がまとまらなくても、相続税の申告期限は延びません。
10か月の期限は、そのまま来ます。
そして、未分割のまま申告すると、次の2つが使えなくなります。
- 小規模宅地等の特例(自宅の土地が330㎡まで80%減額)
- 配偶者の税額軽減(1億6,000万円か法定相続分まで非課税)
この2つは、相続税を大きく左右します。 使えなければ税額は跳ね上がります。
ただし、申告書に1枚の書類を添えておけば、あとから取り戻せます。
「申告期限後3年以内の分割見込書」
この紙を出しておくかどうかで、結果がまったく変わります。
未分割のまま申告すると、どうなるか
国税庁は、こう定めています。
相続税の申告期限までに遺産分割が行われなかった場合は、
各相続人が民法に規定する相続分に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、
相続税の申告をすることになります。
つまり、実際には1円も受け取っていなくても、法定相続分で受け取ったものとして課税されます。
| 項目 | 未分割のまま申告した場合 |
|---|---|
| 課税価格の計算 | 法定相続分で取得したものとみなす |
| 小規模宅地等の特例 | 使えません |
| 配偶者の税額軽減 | 使えません |
| 納付 | 期限までに現金で納める必要があります |
| 物納 | 未分割の財産は物納できません |
| 農地等の納税猶予 | 使えません |
いったんは、特例なしの高い税額で納めることになります。
これがどれだけ重いか、数字で見てみます。
例:自宅6,000万円+預貯金2,000万円、相続人は配偶者と子1人
| 分割が済んでいる場合 | 未分割の場合 | |
|---|---|---|
| 自宅の評価 | 6,000万円 → 1,200万円(小規模宅地等の特例80%減) | 6,000万円(減額なし) |
| 課税価格の合計 | 3,200万円 | 8,000万円 |
| 基礎控除(3,000万+600万×2) | 4,200万円 | 4,200万円 |
| 課税遺産総額 | 0円 | 3,800万円 |
| 配偶者の税額軽減 | — | 使えません |
| 相続税の総額 | 0円 | 数百万円 |
同じ財産でも、分割が済んでいるかどうかで、ここまで変わります。
「申告期限後3年以内の分割見込書」を必ず添えてください
未分割で申告するときは、この書類を申告書に添付します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 申告期限後3年以内の分割見込書 |
| いつ出すか | 未分割の申告書に添付して提出 |
| 書く内容 | 分割されていない理由、分割の見込み、適用を受けようとする特例 |
| 効果 | 申告期限から3年以内に分割できれば、特例を適用できます |
A4用紙1枚の、簡単な書類です。
これを付け忘れると、3年以内に分割しても特例は使えません。
未分割の申告で最も多い失敗が、この添付漏れです。
分割できたら、更正の請求をします
3年以内に遺産分割がまとまったら、改めて特例を適用して計算し直します。
| 結果 | 手続き | 期限 |
|---|---|---|
| 税額が少なくなる | 更正の請求 | 分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内 |
| 税額が多くなる | 修正申告 | (期限の定めはありませんが、早めに) |
還付を受けるには、4か月以内という期限があります。
分割協議が成立したら、すぐに税理士へ連絡してください。
未分割の申告は、実際どう進めるのか
申告書は、連名でも別々でも出せます
相続税の申告書は、相続人が共同で1通を提出するのが一般的です。
ただし、もめている場合は、相続人ごとに別々に提出することもできます。
| 形 | 内容 |
|---|---|
| 共同で1通 | 通常の形。全員の署名が入ります |
| 別々に提出 | 関係が悪く、共同で作れない場合。内容が食い違うと税務署から確認が入ります |
別々に出すこと自体は問題ありません。 「相手が協力しないから申告できない」ということはありません。
納税は、それぞれが自分の分を納めます
未分割でも、法定相続分で取得したものとして計算した税額を、各自が納めます。
ここで問題になるのが、現金がないことです。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 預貯金が凍結されている | 遺産分割前の払戻し制度で一定額を引き出せます |
| それでも足りない | 自己資金、または金融機関からの借入れ |
| どうしても納められない | 延納(分割払い)を検討します。物納は未分割では使えません |
遺産分割前の預貯金払戻し制度|葬儀費用を先に引き出す方法
相続税は分割払いできる?延納・物納の条件と、その前にやるべきこと
分割が決まったら、やり直します
| 結果 | 手続き |
|---|---|
| 税額が減る(特例が使えるようになった) | 更正の請求(4か月以内) |
| 税額が増える(多く取得することになった) | 修正申告 |
多くの場合、特例が使えるようになるため税額は減ります。
だからこそ、4か月の期限を逃さないでください。
間に合わなかった家族の、実際の経過
よくある流れを、時系列で並べます。
| 時期 | 起きること |
|---|---|
| 1か月目 | 葬儀、四十九日。誰も相続の話はしない |
| 3か月目 | 相続放棄の期限。借金がないことを確認して、そのまま |
| 5か月目 | 「そろそろ分けようか」という話が出る |
| 6か月目 | 自宅を誰が継ぐかで意見が割れる |
| 8か月目 | 話し合いが止まる。税理士に相談 |
| 9か月目 | 未分割で申告する方針に切り替え、分割見込書を準備 |
| 10か月目 | 申告・納付。特例は使わず、高い税額を納める |
| 1年6か月目 | 話し合いがまとまる |
| 1年8か月目 | 更正の請求。納めすぎた税金が還付される |
この家族は、分割見込書を出していたので取り戻せました。
出していなければ、高い税額のまま終わっていました。
3年を超えそうな場合
裁判になっているなど、3年では終わらないこともあります。
その場合は、もう1つの手続きがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書 |
| いつ出すか | 申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日まで |
| どんなとき | 相続等に関する訴えが提起されているなど、一定のやむを得ない事情があるとき |
| 効果 | 税務署長の承認を受ければ、さらに期間を延ばせます |
期限が「3年を経過する日の翌日から2か月」と短い点に注意してください。
3年が過ぎてから慌てても間に合わないことがあります。
申告期限から2年半ほど経ったら、一度ご相談ください。
分割の見通しが立たない場合に、どちらの手を打つかを判断できます。
未分割でも使える控除、使えない特例
すべてが使えなくなるわけではありません。 整理しておきます。
| 未分割でも使えるか | |
|---|---|
| 基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数) | 使えます |
| 生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数) | 使えます(受取人固有の財産のため) |
| 死亡退職金の非課税枠 | 使えます |
| 未成年者控除・障害者控除 | 使えます |
| 相次相続控除 | 使えます |
| 債務控除・葬式費用 | 使えます |
| 小規模宅地等の特例 | 使えません(分割見込書で後から適用) |
| 配偶者の税額軽減 | 使えません(同上) |
| 農地等の納税猶予 | 使えません |
| 物納 | 使えません |
使えなくなるのは、「誰が取得したか」で判定するものです。
逆にいえば、財産全体で決まるものは、未分割でも使えます。
未分割でも、できることがあります
① 預貯金の払戻し
口座は凍結されますが、葬儀費用などのために一定額を引き出せる制度があります。
② 相続登記
相続登記は保存行為として、相続人の1人が単独で(法定相続分での登記を)申請できます。
2024年4月から義務化されているため、未分割でも放置はできません。
③ 一部だけ先に分割する
全部をまとめて決める必要はありません。
もめている不動産は後回しにして、預貯金だけ先に分けることはできます。
一部でも分割できれば、その分について特例を使える場合があります。
「全部決まらないと何もできない」わけではありません。
そもそも、なぜ間に合わないのか
ご相談を受けていると、原因はだいたい次のどれかです。
| 原因 | どうするか |
|---|---|
| 相続人の1人が話し合いに応じない | 家庭裁判所の調停を検討します |
| 分けられない不動産がある | 代償分割・換価分割で調整します |
| 相続人が多い・遠方にいる | 早い段階で連絡を取り、書面でやり取りします |
| 財産の全体像が分からない | まず財産調査を終わらせます |
| 誰も動いていない | これが最も多い原因です |
最後の「誰も動いていない」が、実は一番多いケースです。
10か月は、思っているより短い期間です。
四十九日、年金や保険の手続き、遺品の整理をしていると、あっという間に半年が過ぎます。
【重要】未分割の放置には、もう1つの期限があります
2023年4月1日から、相続開始から10年という区切りができました。
10年を過ぎると、特別受益や寄与分を主張できなくなり、
分け方は原則として法定相続分になります(民法904条の3)。
相続税の3年、民法の10年。 2つの期限が走っています。
共有名義の不動産を相続したら|共有のまま放置すると起きること
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
新宿区では、未分割になりやすい事情があります。
| 事情 | 内容 |
|---|---|
| 自宅の割合が大きい | 財産の大半が自宅で、現金が少ないため分けにくい |
| 地価が高い | 代償金の額が大きくなり、用意できないことがある |
| 分筆できない | 1区画が狭く、現物分割が難しい |
| 借地が多い | 借地権は分けにくく、建て替えにも地主の承諾が要る |
そして新宿区は、自宅に小規模宅地等の特例が使えるかどうかで税額が大きく変わる地域です。
未分割のままだと、その最大の武器を使えないまま納税することになります。
当センターは相続税の申告と生前対策だけを扱っています。
申告期限まで残り2か月、という段階でもご相談ください。
まず未分割で申告し、分割見込書を添えて特例を残す。その段取りをお手伝いします。
〒160-0023 東京都新宿区西新宿7丁目19-5 KYS西新宿ビル1階
東京メトロ丸ノ内線「西新宿」駅から徒歩約5分/各線「新宿」駅から徒歩10分
受付時間 9:00〜19:00(土日祝も対応)
よくある質問
Q1. 遺産分割がまとまらないと、申告期限は延びますか
延びません。 相続開始を知った日の翌日から10か月です。
まとまらない場合は、未分割のまま申告して納付することになります。
Q2. 未分割だと、どの特例が使えなくなりますか
小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減です。
どちらも税額への影響が大きいため、分割見込書の添付が欠かせません。
Q3. 分割見込書を出し忘れました
3年以内に分割しても、特例を適用できなくなります。
申告済みであれば、まず申告書の控えを確認してください。添付の有無で対応が変わります。
Q4. 3年以内に分割できたら、どうしますか
改めて特例を適用して計算し、更正の請求をします。
期限は分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内です。過ぎると還付を受けられません。
Q5. 3年では終わりそうにありません
「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出します。
提出期限は申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までです。
Q6. 一部だけ先に分けることはできますか
できます。 もめている不動産は後回しにして、預貯金だけ先に分けることは可能です。
一部でも分割できれば、その部分について特例を使える場合があります。
Q7. 未分割でも納税はしなければいけませんか
必要です。 期限までに納付しないと延滞税がかかります。
未分割の財産は物納もできないため、納税資金の確保が課題になります。
Q8. 相続人の1人が話し合いに応じません
家庭裁判所の調停を検討することになります。並行して、まず未分割で申告し、分割見込書を添付してください。
調停中であれば、3年を超える場合の承認申請の対象にもなり得ます。
まとめ
- 遺産分割がまとまらなくても、相続税の申告期限(10か月)は延びません
- 未分割だと小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えません
- 法定相続分で取得したものとして計算し、いったん高い税額で納めます
- 「申告期限後3年以内の分割見込書」を必ず添付してください
- 3年以内に分割できれば特例を適用でき、4か月以内に更正の請求をします
- 3年を超えるなら、承認申請書を「3年経過の翌日から2か月以内」に提出します
- 未分割でも、預貯金の払戻し・相続登記・一部分割はできます
- 相続開始から10年を過ぎると、特別受益・寄与分を主張できなくなります
監修者
天尾 信之(あまお のぶゆき)
税理士/東京税理士会 登録番号 第136528号
税理士法人Ambitious 代表社員
相続・事業承継の相談実績3,000件超。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」(登録者4.2万人)で、相続の実務を発信しています。
出典
- 国税庁タックスアンサー No.4208「相続財産が分割されていないときの申告」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208.htm
- 国税庁「B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/2327.htm
- 国税庁「B1-6 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/1585-01.htm
- 国税庁タックスアンサー No.4124「小規模宅地等の特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
- 法務省「具体的相続分による遺産分割の時的限界」(民法904条の3)
https://www.moj.go.jp/content/001372212.pdf

