相続税が0円でも申告が必要なケース|特例は「申告して初めて使える」
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年9月11日 最終更新日:2026年9月12日
【結論】特例で0円になった場合は、申告が必要です
相続税が0円なら申告は要らない——これは半分正しく、半分間違っています。財産の合計が基礎控除以下なら、本当に申告は不要です。しかし「特例を使った結果として0円になった」場合は、申告しなければなりません。小規模宅地等の特例も、配偶者の税額軽減も、申告することが適用の条件だからです。申告しなければ特例が使えず、特例が使えなければ税額が発生します。ここで最も怖いのは、本人に自覚がないことです。「計算したら0円だったから出さなくていい」と判断した数年後、税務署から連絡が来る——実際に起きています。
| 状況 | 申告 |
|---|---|
| 財産の合計が基礎控除以下 | 不要(本当に要りません) |
| 小規模宅地等の特例で0円になった | 必要 |
| 配偶者の税額軽減で0円になった | 必要 |
| 特定計画山林・農地の納税猶予などを使った | 必要 |
| 相次相続控除・障害者控除・未成年者控除で0円になった | 不要(税額控除は申告要件ではありません) |
| 寄附金の非課税特例を使った | 必要 |
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
まず「基礎控除を超えているか」を確認してください
ここを間違えると、話が始まりません。
| 法定相続人 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
財産の合計がこの金額以下なら、申告は不要です。 税務署から連絡が来ることもありません。
ただし「財産の合計」の数え方に注意
次のものを入れ忘れると、判断を誤ります。
| 入れるもの | 補足 |
|---|---|
| 土地・建物 | 路線価による評価額。実勢価格ではありません |
| 預貯金 | 相続開始時点の残高+既経過利息 |
| 有価証券 | 株式・投資信託・国債など |
| 死亡保険金 | 非課税枠(500万円×法定相続人の数)を超える部分 |
| 死亡退職金 | 同上(別枠) |
| 名義預金 | 配偶者・子の名義でも、実質が被相続人のものなら含みます |
| 手元現金 | 亡くなる直前に引き出した分も含みます |
| 相続開始前7年以内の贈与 | 相続や遺贈で財産を取得した人への贈与(順次延長中) |
| 相続時精算課税を選んだ贈与 | 年110万円の基礎控除部分を除く |
| ゴルフ会員権、貸付金、書画骨董 | — |
そして差し引けるのが、借入金・未払金・葬式費用です。
⚠️ 特例を適用する前の金額で判断してください。
小規模宅地等の特例で80%減額した後の金額ではありません。減額前の評価額で基礎控除を超えるなら、申告が必要です。
申告が必要になる特例
1. 小規模宅地等の特例(最も多いケース)
自宅の土地について、330㎡までの部分の評価額が80%減額されます。
| 区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
この特例は、相続税の申告書を提出することが適用の条件です。
【例】東京23区の一般的なご家庭
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 自宅の土地(減額前) | 6,000万円 |
| 建物・預貯金など | 1,000万円 |
| 財産の合計 | 7,000万円 |
| 基礎控除(相続人3人) | △4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 2,200万円 |
このままなら相続税がかかります。ところが小規模宅地等の特例を使うと——
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 自宅の土地(80%減額後) | 1,200万円 |
| 建物・預貯金など | 1,000万円 |
| 財産の合計 | 2,200万円 |
| 基礎控除 | △4,800万円 |
| 税額 | 0円 |
この0円は「申告して初めて成立する0円」です。 申告しなければ2,200万円が課税遺産総額のまま残ります。
2. 配偶者の税額軽減
配偶者が取得した財産は、1億6,000万円か法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。
これも申告が条件です。
そして——配偶者に寄せて0円にすることは、二次相続で不利になることがあります。 目先の0円だけを見て決めないでください。
配偶者の税額軽減とは?1億6,000万円まで非課税
二次相続とは?配偶者が全部相続すると損する理由
3. 申告が不要な控除もあります
次の控除は、申告要件ではありません。 これらだけで0円になるなら、申告は不要です。
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除(10年以内に続けて相続があった場合)
- 贈与税額控除
混同されやすいので、区別してください。
見落とされやすい落とし穴
落とし穴1 遺産分割が終わっていないと、特例が使えません
小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も、原則として「申告期限までに遺産分割が終わっていること」が条件です。
揉めて分割が決まらないと、特例が使えないまま申告することになります。
救済策があります。
「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付して提出しておけば、その後3年以内に分割がまとまった時点で、更正の請求により特例を適用できます。
この見込書を出し忘れると、後から特例を使えません。
分割が決まっていない場合こそ、期限内に申告書を出しておくことが重要です。
落とし穴2 名義預金を入れていない
「基礎控除以下だから申告不要」と判断した根拠に、名義預金が入っていないケースがあります。
配偶者名義・子名義の預金でも、原資が被相続人で、被相続人が管理していたなら相続財産です。
令和6事務年度の税務調査では、9,512件のうち82.3%で申告漏れ等が見つかっています。
落とし穴3 土地を実勢価格で見ている
相続税は路線価で評価します。 実勢価格より低くなるのが通常です。
逆に、実勢価格が低い土地でも路線価が高いことがあります。 「売っても3,000万円だから基礎控除以下」という判断は危険です。
落とし穴4 特例の要件を満たしていない
小規模宅地等の特例は「誰が取得したか」「いつまで保有・居住したか」で結論が変わります。
申告期限まで、その宅地を保有し、居住し続けることが要件になる区分があります。申告前に売却してしまうと、特例が使えなくなることがあります。
動画で紹介している「名義変更を急いだために全部失った」失敗も、これに近い構造です。
申告しなかったらどうなるか
税務署は、相続の発生を把握しています。
死亡届の情報は市区町村から税務署へ通知され、税務署は生前の所得・不動産・金融資産の情報を持っています。
申告が必要なのに出していないと、「相続税の申告等についてのご案内」または「相続税についてのお尋ね」が届くことがあります。
| 状況 | ペナルティ |
|---|---|
| 期限後に自主的に申告 | 無申告加算税(軽減されます)+延滞税 |
| 調査の通知後に申告 | 無申告加算税(軽減幅が小さくなります)+延滞税 |
| 調査で指摘されてから | 無申告加算税(重くなります)+延滞税 |
| 仮装・隠蔽があった | 重加算税 |
そして最も痛いのが、これです。
申告期限を過ぎてから申告した場合でも、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は
適用できる場合があります。 ただし期限内申告と同じようにはいきません。
「申告期限後3年以内の分割見込書」を出していない、期限内申告をしていないといった
事情が重なると、特例を使えないまま課税されることになります。
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
この3区は「特例で0円」になるご家庭が最も多い地域です。
理由は路線価の高さです。
新宿区・中野区・世田谷区では、自宅の土地だけで5,000万円から1億円を超えることが珍しくありません。
法定相続人が3人なら基礎控除は4,800万円。自宅だけで超えます。
ところが小規模宅地等の特例を使うと、330㎡まで80%減額されます。 6,000万円の土地が1,200万円になり、多くのご家庭で税額が0円になります。
つまりこの3区では——
| 特例を使わない場合 | 相続税がかかる |
| 特例を使った場合 | 0円。ただし申告が必要 |
「うちは相続税がかからないから」と思っている方の多くが、実は申告が必要な側です。
逆に言えば、申告さえすれば税額0円で済むご家庭が非常に多いということでもあります。申告を怖がる必要はありません。出さないことのほうが危険です。
よくある質問
Q1. 計算したら0円でした。申告しなくてよいですか。
A. 「なぜ0円になったか」で変わります。 財産の合計が基礎控除以下なら不要です。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使った結果0円なら、申告が必要です。これらの特例は、申告することが適用の条件だからです。
Q2. 基礎控除以下かどうかは、特例を使った後の金額で見ますか。
A. 特例を使う前の金額で見ます。 小規模宅地等の特例で80%減額した後の金額ではありません。減額前の評価額で基礎控除を超えるなら、申告が必要です。
Q3. 申告しなくても、税務署は分からないのではないですか。
A. 分かります。 死亡届の情報は市区町村から税務署へ通知され、税務署は生前の所得・不動産・金融資産の情報を持っています。「相続税の申告等についてのご案内」や「お尋ね」が届くことがあります。
Q4. 遺産分割が決まっていません。特例は使えませんか。
A. 申告期限までに分割が終わっていることが原則条件です。ただし「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付して提出しておけば、3年以内に分割がまとまった時点で、更正の請求により特例を適用できます。 この見込書を出し忘れると後から使えませんので、分割が決まっていなくても期限内に申告書を出してください。
Q5. 未成年者控除で0円になりました。申告は必要ですか。
A. 不要です。 未成年者控除・障害者控除・相次相続控除・贈与税額控除は、申告要件ではありません。 これらだけで0円になるなら申告は不要です。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減とは区別してください。
Q6. 申告すると、税務調査が来やすくなりませんか。
A. 逆です。 申告が必要なのに出していないほうが、はるかに問題になります。令和6事務年度には、無申告事案に対する実地調査が650件行われ、86.5%で非違が見つかっています。 1件あたりの申告漏れ課税価格は1億1,517万円で、通常の調査より大きくなっています。
Q7. 自分で申告できますか。
A. 財産が預貯金だけなら、ご自身でも可能です。 ただし土地がある場合は評価に判断が入ります。 路線価に面積を掛けるだけでは終わらず、補正の適用で評価額が大きく変わります。特例の要件判定も細かいので、土地がある場合は専門家にご相談ください。
Q8. 申告期限までに間に合いそうにありません。
A. まず期限内に、分かる範囲で申告書を出してください。 そのうえで「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、後から特例を使えます。期限内申告をしていないと、選べる手が減ります。 期限が近い場合はすぐご相談ください。
まとめ
- 「税額0円=申告不要」ではありません
- 財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、本当に不要です
- 小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減で0円になった場合は、申告が必要です
- 基礎控除を超えるかは、特例を使う前の金額で判断します
- 未成年者控除・障害者控除・相次相続控除は申告要件ではありません(区別してください)
- 特例は原則申告期限までに遺産分割が終わっていることが条件です
- 分割が決まっていなくても、「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば後から使えます
- 名義預金・手元現金・死亡保険金の超過分を入れ忘れると、判断を誤ります
- 東京23区では「特例を使えば0円、ただし申告は必要」というご家庭が非常に多くあります
- 申告を怖がる必要はありません。出さないことのほうが危険です
ご相談のご案内
「うちは申告が必要かどうか」の判断だけでも承ります。 財産の内訳をお持ちいただければ、その場で基礎控除との比較と、特例が使えるかどうかをお伝えします。必要がなければ、その旨をお伝えします。
📞 0120-75-1234(9:00〜19:00/平日・土曜・日祝も受付)
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監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
相続・事業承継の相談実績3,000件超。手がけた相続税申告のうち、税務調査に至った割合は1%未満。
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登録者42,000人・累計729万回再生(2026年8月時点)。
出典
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税分)
- 国税庁 令和6事務年度における相続税の調査等の状況
- e-Gov 相続税法
※本記事の内容は2026年9月時点の法令に基づいています。

