配偶者居住権とは?自宅に住み続けながら二次相続の税負担を減らす仕組み
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超/税務調査率1%未満。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年8月13日 最終更新日:2026年9月6日
【結論】自宅に住み続けたまま、二次相続の課税財産を減らせます
配偶者居住権とは、配偶者が自宅に住み続ける権利だけを取得し、建物と土地の所有権は子などが取得する制度です。2020年4月1日に始まりました。
この制度の要点は次の一点に尽きます。
配偶者居住権は、配偶者が亡くなると自動的に消滅します。消滅した権利は、二次相続の課税対象になりません。
つまり配偶者は住まいを確保したまま、二次相続で課税される財産を減らせます。財産の大半が自宅という家庭では、極めて有効な選択肢です。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 制度の開始 | 2020年4月1日(それ以前に発生した相続には使えません) |
| 何ができるか | 配偶者は自宅に住み続けられる。所有権は子などが取得する |
| 二次相続での扱い | 配偶者の死亡で権利が消滅し、課税されない |
| 設定の方法 | ①遺産分割協議 ②遺言 ③家庭裁判所の審判 |
| 必須の手続き | 建物への登記(登記しないと第三者に主張できません) |
| 向いているケース | 財産の大半が自宅で、配偶者の生活資金も確保したい場合 |
| 向かないケース | 自宅を売却する可能性がある/配偶者が施設入居を予定している |
なぜこの制度ができたのか
背景にあるのは、「自宅を相続すると生活費が残らない」という問題です。
たとえば遺産が自宅3,000万円と預貯金1,000万円、相続人が母と子1人のケースを考えます。
法定相続分どおりに分けると、それぞれ2,000万円ずつです。
母が自宅(3,000万円)を相続すると、法定相続分の2,000万円を1,000万円超過します。
その差額を埋めるため、預貯金は子がすべて相続するか、母が子に代償金を払うことになります。
結果として、母は家に住めるが手元に生活費が残らない——これが従来の構造でした。
配偶者居住権は、この自宅の価値を「住む権利」と「所有権」に分けることで解決します。
仕組み:自宅の価値を2つに分ける
自宅の評価額を、次の2つに分割します。
| 権利 | 取得する人 | 内容 |
|---|---|---|
| 配偶者居住権 | 配偶者 | 住み続ける権利。売却も譲渡もできない |
| 負担付きの所有権 | 子など | 所有権。ただし配偶者が住んでいる間は自由に使えない |
先ほどの例に当てはめると
自宅3,000万円を、配偶者居住権1,500万円/所有権1,500万円に分けたとします。
| 従来 | 配偶者居住権を使った場合 | |
|---|---|---|
| 母 | 自宅3,000万円 | 配偶者居住権1,500万円+預貯金500万円 |
| 子 | 預貯金1,000万円 | 所有権1,500万円+預貯金500万円 |
| 母の状況 | 住めるが生活費なし | 住めて、生活費も確保 |
母は自宅に住み続けながら、預貯金も受け取れるようになりました。 これが本来の制度趣旨です。

二次相続での効果
税務上の効果は、ここで表れます。
母が亡くなると、配偶者居住権は自動的に消滅します。
消滅した権利は誰にも承継されないため、二次相続の課税財産に含まれません。
一方、子はもともと所有権を持っているので、母の死亡によって自動的に完全な所有権を取得します。
このとき、新たな相続税はかかりません。
| 一次相続 | 二次相続 | |
|---|---|---|
| 母が自宅を全部相続した場合 | 自宅3,000万円が母の財産に | 3,000万円が課税対象 |
| 配偶者居住権を使った場合 | 母は居住権1,500万円のみ | 居住権は消滅。課税対象はゼロ |
この差額1,500万円が、そのまま二次相続の課税財産の減少になります。
これは「節税」というより「制度の構造上そうなる」ものです。
配偶者居住権は一身専属の権利で、配偶者が亡くなれば当然に消滅します。
消滅した権利には課税のしようがない、という理屈です。
設定する3つの方法
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ① 遺産分割協議 | 相続人全員の合意で設定する | 最も一般的。全員の同意が必要 |
| ② 遺言 | 被相続人が遺言で配偶者に遺贈する | 生前に確実に手当てできる。最も確実な方法 |
| ③ 家庭裁判所の審判 | 分割協議がまとまらない場合 | 配偶者の生活維持に特に必要と認められる場合に限られる |
遺言で設定するのが最も確実です。
遺産分割協議では、お子様が「所有権だけもらっても意味がない」と難色を示すことがあります。
ご存命のうちに公正証書遺言で手当てしておけば、その心配がありません。
登記を忘れると意味がなくなります
配偶者居住権は、建物に登記しなければ第三者に主張できません。
登記をしないまま所有者である子が建物を第三者に売却してしまうと、
配偶者は買主に対して「住む権利がある」と主張できなくなります。
- 登記できるのは建物のみ(土地には登記しません)
- 登記申請は配偶者と建物所有者の共同申請
- 遺産分割協議の成立後、速やかに手続きします
この登記は、制度を使ううえで必須の手続きです。 提携司法書士と連携して確実に行います。
使う前に確認すべき5つの注意点
1. 売却できません
配偶者居住権は譲渡できません。「自宅を売って施設に入る」という選択肢が実質的に消えます。
配偶者が施設入居を検討している、あるいは将来的に自宅の売却を考えている場合は、
この制度は向きません。 合意により配偶者居住権を消滅させて所有者から対価を受け取る方法もありますが、
その場合は譲渡所得として課税される可能性があります。
2. 第三者に貸すには所有者の承諾が必要
配偶者が自宅を賃貸に出したい場合、建物所有者の承諾が必要です。
配偶者の判断だけでは決められません。
3. 建物の修繕費や固定資産税は配偶者の負担
配偶者居住権を持つ配偶者には、建物を善良な管理者の注意をもって使用・収益する義務があります。
通常の必要費(修繕費、固定資産税など)は配偶者の負担です。
4. 2020年4月1日以降に発生した相続に限る
制度開始前に発生した相続には使えません。 遺言で設定する場合も、
2020年4月1日以降に作成された遺言である必要があります。
5. 小規模宅地等の特例との関係を確認する
配偶者居住権に基づく敷地利用権についても、要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用できます。
ただし配偶者と所有者それぞれの適用関係が複雑になるため、税理士による事前の検討が不可欠です。
向いているケース・向かないケース
| 状況 | |
|---|---|
| 向いている | ・財産の大半が自宅で、預貯金が少ない ・配偶者が自宅に住み続けたい ・配偶者の生活資金も確保したい ・二次相続の課税財産を減らしたい ・子と配偶者の関係が良好で、長期的に協力できる |
| 向かない | ・自宅を売却する可能性がある ・配偶者が施設入居を予定している ・配偶者の年齢が高く、居住期間が短いと見込まれる ・自宅以外に十分な財産があり、そもそも分割に困らない |
東京では「財産の大半が自宅」というケースが非常に多くあります。
東京都の相続税の課税割合は20.0%と全国平均10.4%の約2倍ですが、その多くは
「現金は多くないのに自宅の評価額が高い」という型です。
配偶者居住権が最も効くのは、まさにこの型です。
よくある質問
Q1. 配偶者居住権はいつまで続きますか?
A. 原則として配偶者が亡くなるまで(終身)です。ただし遺産分割協議や遺言で
「10年間」などの期間を定めることもできます。期間を定めた場合、その期間の満了で権利は消滅します。
Q2. 配偶者居住権の評価額はどう計算しますか?
A. 建物の耐用年数、経過年数、配偶者の平均余命、法定利率などをもとに計算します。
配偶者が若いほど居住権の評価額は高く、高齢であるほど低くなります。
計算式は複雑なため、税理士による試算が必要です。
Q3. 配偶者が老人ホームに入ることになったらどうなりますか?
A. 配偶者居住権は自動的には消滅しません。入居後も権利は残ります。
ただし自宅を賃貸に出すには建物所有者の承諾が必要です。
また、合意によって配偶者居住権を消滅させ、所有者から対価を受け取ることもできますが、
その場合は譲渡所得として課税される可能性があります。施設入居の可能性がある方は、
制度を使う前に必ずご相談ください。
Q4. 子が「所有権だけもらっても仕方ない」と反対しています。
A. よくあるご相談です。所有権を取得する子には、母が亡くなった時点で
新たな相続税なしに完全な所有権を取得できるというメリットがあります。
また、二次相続全体の税額が下がることで、結果的に子の負担も軽くなります。
一次と二次を合算した数字をお見せすると、理解が得られやすくなります。
Q5. すでに遺産分割が終わっています。今から設定できますか?
A. 遺産分割が確定した後は、原則として設定できません。
配偶者居住権は遺産分割・遺言・審判のいずれかによって取得するものだからです。
一次相続の遺産分割協議を成立させる前が、検討できる唯一のタイミングです。
Q6. 配偶者居住権を使えば必ず得をしますか?
A. いいえ。 配偶者の年齢によっては居住権の評価額が高くなり、期待した効果が出ないことがあります。
また売却の可能性がある場合はかえって不便になります。
必ず一次相続と二次相続を合算した試算をしたうえで判断してください。
まとめ
- 配偶者居住権は、配偶者が自宅に住み続ける権利だけを取得する制度(2020年4月1日開始)
- 所有権は子などが取得し、配偶者の死亡で居住権は消滅して二次相続で課税されない
- 配偶者は住まいと生活資金の両方を確保できる
- 設定方法は遺産分割協議・遺言・家庭裁判所の審判の3つ。遺言が最も確実
- 建物への登記が必須。登記しないと第三者に主張できない
- 売却できない/賃貸には所有者の承諾が必要/修繕費と固定資産税は配偶者負担
- 施設入居や売却の可能性がある場合は向かない
- 設定を検討できるのは、一次相続の遺産分割が成立する前だけ
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配偶者居住権を使うべきかどうかは、ご自宅の評価額、配偶者の年齢、
将来の住まいの見通しによって結論が変わります。
当センターでは、一次相続と二次相続を合算したシミュレーションをご提示したうえで、
配偶者居住権を使う場合と使わない場合を比較してご提案しています。
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監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
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