遺留分侵害額請求とは?1年の時効と、2019年の改正で変わったこと
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
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公開日:2026年9月11日 最終更新日:2026年9月12日
【結論】1年で時効。そして請求できるのはお金です
遺留分は、一定の相続人に法律で保障されている最低限の取り分です。遺言で「全財産を長男に」と書かれていても、他の相続人はこの取り分を請求できます。ただし期限があります。相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年。これを過ぎると時効で消滅します。相続開始から10年を過ぎた場合も同じです。そして2019年7月1日の改正で、請求できるものが「不動産などの現物」から「お金」に変わりました。以前は不動産の共有状態が生じて紛争が長引きましたが、いまは金銭債権として整理されます。最も重要な点を先に申し上げます。兄弟姉妹には遺留分がありません。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 遺留分がある人 | 配偶者、子(およびその代襲相続人)、直系尊属(父母・祖父母) |
| 遺留分がない人 | 兄弟姉妹・甥姪、相続放棄した人、相続欠格・廃除された人 |
| 遺留分の割合 | 原則2分の1(相続人が直系尊属のみの場合は3分の1) |
| 請求できるもの | 金銭(2019年7月1日以後の相続。それ以前は現物の返還) |
| 期間制限 | 知った時から1年(時効)/相続開始から10年(除斥期間) |
| 誰に請求するか | 遺贈・贈与を受けた人(受遺者・受贈者) |
| 相続税 | 支払った側は債務控除ではなく更正の請求、受け取った側は期限後申告または修正申告 |
誰に、いくらの遺留分があるか
遺留分がある人・ない人
| 相続人 | 遺留分 |
|---|---|
| 配偶者 | あります |
| 子・孫(代襲相続人) | あります |
| 父母・祖父母(直系尊属) | あります |
| 兄弟姉妹・甥姪 | ありません |
| 相続放棄した人 | ありません |
| 相続欠格・廃除された人 | ありません(ただし代襲相続人にはあります) |
「兄弟姉妹に遺留分がない」ことの意味は、非常に大きくなります。
お子さんがいないご夫婦で、ご両親も他界している場合、相続人は配偶者と被相続人の兄弟姉妹です。
このとき「全財産を妻に相続させる」という遺言書を書いておけば、兄弟姉妹は遺留分を請求できません。遺言のとおりに渡ります。
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遺留分の割合
まず全体としての遺留分(総体的遺留分)が決まります。
| 相続人の構成 | 総体的遺留分 |
|---|---|
| 直系尊属のみ(父母・祖父母だけ) | 3分の1 |
| それ以外(配偶者や子がいる場合) | 2分の1 |
次に、それを法定相続分で分けます。
| 相続人 | 法定相続分 | 個別の遺留分 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 1 | 1/2 |
| 配偶者と子1人 | 各1/2 | 配偶者1/4・子1/4 |
| 配偶者と子2人 | 配偶者1/2、子各1/4 | 配偶者1/4・子各1/8 |
| 子2人のみ | 各1/2 | 各1/4 |
| 配偶者と父母 | 配偶者2/3、父母各1/6 | 配偶者1/3・父母各1/12 |
| 父母のみ | 各1/2 | 各1/6 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者3/4、兄弟1/4 | 配偶者1/2・兄弟なし |
いくら請求できるか
計算の基礎になる財産
遺留分を算定するための財産の価額は、次のように計算します。
相続開始時の財産 + 贈与した財産 − 債務
「贈与した財産」の範囲に決まりがあります。
| 誰への贈与か | どこまで加算するか |
|---|---|
| 相続人以外への贈与 | 相続開始前1年以内のもの |
| 相続人への贈与(特別受益にあたるもの) | 相続開始前10年以内のもの |
| 当事者双方が遺留分を害することを知って行った贈与 | 期間の制限なく加算 |
相続税の「7年以内の生前贈与加算」とは、まったく別の話です。
遺留分は民法、生前贈与加算は相続税法。期間も対象も違います。 混同しないでください。
計算例
【前提】 相続人は長男・次男の2人。父が「全財産を長男に相続させる」と遺言。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相続開始時の財産 | 6,000万円 |
| 8年前に長男へ贈与した現金 | +1,000万円 |
| 借入金 | △1,000万円 |
| 遺留分算定の基礎となる財産 | 6,000万円 |
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 総体的遺留分 | 6,000万円 × 1/2 | 3,000万円 |
| 次男の個別遺留分 | 3,000万円 × 1/2 | 1,500万円 |
| 次男が実際に取得した額 | — | 0円 |
| 遺留分侵害額 | 1,500万円 − 0円 | 1,500万円 |
次男は長男に対し、1,500万円の金銭の支払いを請求できます。
次男がすでに一部を取得していたり、生前に贈与を受けていた場合は、その分が差し引かれます。
2019年7月1日の改正で変わったこと
改正前と後で、制度の性質が変わりました。
| 項目 | 改正前(〜2019年6月30日) | 改正後(2019年7月1日〜) |
|---|---|---|
| 名称 | 遺留分減殺請求 | 遺留分侵害額請求 |
| 請求できるもの | 現物の返還(不動産の持分など) | 金銭 |
| 結果として生じる状態 | 不動産の共有(紛争が長引く原因に) | 金銭債権 |
| 支払えない場合 | — | 裁判所に期限の許与を求められます |
どちらが適用されるかは、相続の開始日(被相続人が亡くなった日)で決まります。 遺言書を書いた日ではありません。
改正の効果は大きく出ています。
改正前は、事業用の不動産や自社株が共有になり、事業承継そのものが行き詰まることがありました。いまは金銭で解決するため、事業や不動産をそのまま承継できます。
一方で、請求された側は現金を用意しなければなりません。 不動産しかない場合、売却を迫られることがあります。
期限を過ぎると請求できません
2つの期間制限があります。
| 期間 | 起算点 | 性質 |
|---|---|---|
| 1年 | 相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時 | 時効 |
| 10年 | 相続開始の時 | 除斥期間(知らなくても消滅します) |
1年は非常に短いと感じられると思います。
まず必要なのは「遺留分を請求します」という意思表示です。 これを1年以内に行えば、時効は完成しません。
意思表示は口頭でも法律上は有効ですが、実務では必ず内容証明郵便で行います。 「いつ、何を伝えたか」を証拠に残すためです。
意思表示をした後に発生する金銭債権は、別途5年の消滅時効にかかります。
意思表示をして安心せず、その後の交渉も進めてください。
請求の進め方
ステップ1 内容証明郵便で意思表示
1年の時効を止めるための最優先事項です。
金額が確定していなくても構いません。「遺留分侵害額請求権を行使します」という意思を伝えることが目的です。
ステップ2 財産を調べ、金額を確定する
相手が財産の全容を明かさないことがあります。
- 不動産:登記事項証明書、固定資産評価証明書
- 預貯金:残高証明書、取引履歴
- 生前贈与:贈与税の申告書、通帳の履歴
遺留分の計算は、相続税評価額ではなく時価(実勢価格)で行うのが原則です。ここは相続税と考え方が違います。
ステップ3 話し合い
当事者間で合意できれば、それが最も早く、費用もかかりません。
合意したら必ず書面に残してください。
ステップ4 家庭裁判所の調停
話し合いがまとまらない場合、「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます。
相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てます。
調停でもまとまらない場合は、地方裁判所への訴訟になります(遺産分割と違い、審判には移行しません)。
交渉・調停・訴訟の代理は、弁護士の業務です。
税理士は行えません。 当センターでは提携する弁護士をご紹介し、
財産評価と相続税の再計算を担当します。
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相続税はどうなるか
遺留分侵害額が確定すると、相続税の申告をやり直します。
| 立場 | 手続き |
|---|---|
| 支払った側(多く取得していた人) | 更正の請求(払いすぎた相続税が戻ります) |
| 受け取った側 | 期限後申告または修正申告 |
更正の請求の期限に注意してください。
通常の更正の請求は申告期限から5年ですが、遺留分侵害額が確定したことによる更正の請求は、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内です。
この4か月を過ぎると、払いすぎた相続税が戻りません。
支払う金銭に代えて不動産などを渡した場合(代物弁済)は、譲渡所得税が発生することがあります。 ここも見落とされやすい点です。
請求されないための備え
遺言書を書く側の視点で、3つ申し上げます。
1. 遺留分を織り込んで配分する
遺留分を侵害しない配分にしておけば、そもそも請求は起きません。
「全財産を長男に」ではなく、次男にも遺留分相当額を残す設計にします。
2. 付言事項で理由を書く
法的効力はありませんが、実務では効きます。
「長男には家業を継いでもらうため」「次男には生前に住宅資金を援助したため」——理由が分かれば、請求を思いとどまることがあります。
3. 生命保険を活用する
保険金は原則として遺留分算定の基礎財産に含まれません(受取人固有の財産のため)。
そのため、遺留分を請求されたときの支払原資として保険金を用意しておくという設計ができます。
ただし、保険金が遺産全体に比べて著しく高額な場合、特別受益に準じて持ち戻しの対象とされた裁判例があります。 極端な設計は避けてください。
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【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
この3区では、遺留分の問題が「支払えない」という形で表面化します。
理由は、財産に占める自宅の割合が高いことです。
【よくある形】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 自宅(世田谷区・母と長男が同居) | 8,000万円 |
| 預貯金 | 500万円 |
| 合計 | 8,500万円 |
「自宅は同居している長男に」という遺言。相続人は長男・次男の2人。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 次男の遺留分 | 8,500万円 × 1/2 × 1/2 = 2,125万円 |
| 長男が用意できる現金 | 500万円 |
長男は1,600万円以上を自分で工面しなければなりません。
改正前なら自宅が共有になって決着しましたが、いまは金銭債権です。 払えなければ自宅を売るしかなくなります。
そして自宅を売ると、小規模宅地等の特例の要件を満たさなくなることがあります。 税額まで変わります。
東京で「自宅を特定の子に」という遺言を書く場合、遺留分の支払原資まで含めて設計してください。 生命保険が最も現実的な手段です。
よくある質問
Q1. 兄弟姉妹にも遺留分がありますか。
A. ありません。 遺留分があるのは配偶者・子(およびその代襲相続人)・直系尊属だけです。そのため、お子さんがいないご夫婦が「全財産を配偶者に」という遺言書を書けば、兄弟姉妹は請求できず、遺言のとおりに渡ります。
Q2. 期限はいつまでですか。
A. 相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年(時効)、相続開始から10年(除斥期間)です。1年以内に「遺留分侵害額請求権を行使する」意思表示をすれば時効は完成しません。内容証明郵便で行ってください。
Q3. 不動産で返してもらえますか。
A. 2019年7月1日以後に開始した相続では、請求できるのは金銭のみです。ただし当事者が合意すれば、金銭に代えて不動産を渡すこと(代物弁済)はできます。 その場合、渡した側に譲渡所得税が発生することがあります。
Q4. 相手が払えないと言っています。
A. 裁判所は、支払いについて相当の期限を許与することができます。 分割払いや期限の猶予が認められることがあります。ただし債務そのものは消えません。
Q5. 生前贈与はどこまで計算に入りますか。
A. 相続人以外への贈与は相続開始前1年以内、相続人への贈与(特別受益にあたるもの)は10年以内です。当事者双方が遺留分を害することを知って行った贈与は、期間の制限なく加算されます。相続税の「7年以内の生前贈与加算」とは別の制度ですので、混同しないでください。
Q6. 遺留分を放棄させることはできますか。
A. 生前の放棄には家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条)。本人の自由意思によるか、合理的な理由があるかなどが審査され、簡単には認められません。 相続開始後は、意思表示をしなければ1年で消滅しますので、放棄は自由にできます。
Q7. 相続税はどうなりますか。
A. 支払った側は更正の請求、受け取った側は期限後申告または修正申告です。更正の請求の期限は、遺留分侵害額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内と短いのでご注意ください。通常の5年ではありません。
Q8. 誰に相談すればよいですか。
A. 交渉・調停・訴訟の代理は弁護士の業務です。税理士は行えません。 当センターでは提携する弁護士をご紹介し、財産の評価と相続税の再計算を担当します。金額の算定には財産評価が必要ですので、早い段階でご相談ください。
まとめ
- 遺留分は、一定の相続人に保障された最低限の取り分です
- 兄弟姉妹・甥姪には遺留分がありません
- 割合は原則2分の1(相続人が直系尊属のみなら3分の1)を、法定相続分で分けます
- 2019年7月1日以後の相続では、請求できるのは金銭のみです
- 期限は、知った時から1年(時効)/相続開始から10年(除斥期間)
- 1年以内に内容証明郵便で意思表示してください。金額が未確定でも構いません
- 基礎財産に加える贈与は、相続人以外は1年以内、相続人は10年以内(相続税の7年ルールとは別です)
- 遺留分の計算は時価で行います(相続税評価額ではありません)
- 相続税は、支払った側は更正の請求(4か月以内)、受け取った側は期限後申告・修正申告
- 備えとしては、遺留分を織り込んだ配分・付言事項・生命保険の3つ
- 交渉・調停の代理は弁護士の業務です
ご相談のご案内
遺留分の金額は、財産の評価が決まらないと出せません。 不動産の時価、非上場株式の評価、生前贈与の把握——ここは税理士の仕事です。 弁護士のご紹介と併せて、評価と相続税の再計算をお引き受けします。
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監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
相続・事業承継の相談実績3,000件超。手がけた相続税申告のうち、税務調査に至った割合は1%未満。
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出典
- 裁判所 遺留分侵害額の請求調停
- 裁判所 相続に関する調停
- 法務省 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
- e-Gov 民法
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
※本記事の内容は2026年9月時点の法令に基づいています。

