遺言書の種類と選び方|自筆証書と公正証書のどちらにすべきか
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
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公開日:2026年9月6日 最終更新日:2026年9月6日
【結論】確実さを取るなら公正証書、費用を抑えるなら保管制度つきの自筆証書
遺言書には自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類がありますが、実務で使われるのは前の2つです。公正証書遺言は公証人が作成し、原本が公証役場に保管されるため、方式の不備で無効になるおそれがほぼありません。自筆証書遺言は費用がかからない代わりに、書き方の不備や紛失のリスクがあります。ただし2020年7月から始まった法務局の保管制度を使えば、紛失を防げるうえ家庭裁判所の検認も不要になります。手数料は1通3,900円です。
| 自筆証書遺言 | +法務局の保管制度 | 公正証書遺言 | |
|---|---|---|---|
| 作成 | 全文を自筆(財産目録はパソコン可) | 同左 | 公証人が作成 |
| 証人 | 不要 | 不要 | 2人以上必要 |
| 費用 | かからない | 3,900円(1通) | 財産額に応じた手数料 |
| 保管 | 自分で | 法務局 | 公証役場(原本) |
| 紛失・改ざん | リスクあり | なし | なし |
| 方式の不備 | リスクあり | 形式の確認はある(内容の有効性は別) | ほぼなし |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 不要 |
どれを選んでも、内容が悪ければ争いになります。 形式より中身のほうが重要です。
自筆証書遺言
全文・日付・氏名を自分で書き、押印する遺言です。
要件
- 全文を自筆で書く(パソコン・代筆は不可)
- 日付を書く(「令和8年9月吉日」は不可。日まで特定が必要)
- 氏名を書く
- 押印する
2019年から、財産目録はパソコンで作れます
財産の一覧部分だけは、パソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書を添付したりできます。 ただし各ページに署名押印が必要です。
本文は依然として自筆です。
メリットとデメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 費用がかからない | 方式の不備で無効になることがある |
| いつでも書き直せる | 紛失・改ざん・隠匿のおそれ |
| 内容を誰にも知られない | 見つけてもらえないことがある |
| 証人が不要 | 保管制度を使わないと検認が必要 |
「ないほうがよかった遺言書」は、ほとんどがこの形式です。
法務局の保管制度(2020年7月10日開始)
自筆証書遺言の弱点を、大きく補う制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手数料 | 1通3,900円 |
| どこへ | 全国の遺言書保管所(法務局) |
| 誰が申請するか | 遺言者本人が出頭して申請します(代理不可) |
| 保管期間 | 原本は死亡の日から50年、画像データは150年 |
| 検認 | 不要になります |
| 形式のチェック | 保管の際に外形的な確認があります |
⚠️ ただし「内容が有効」と保証されるものではありません。 日付や署名押印といった形式は確認されますが、遺留分を侵害していないか、内容が明確かどうかまでは見てもらえません。
詳しくは 自筆証書遺言書保管制度とは?法務局に預けるメリット をご覧ください。
公正証書遺言
公証人が作成する遺言です。実務では最も確実な方法とされています。
流れ
- 公証人と内容を打ち合わせる(財産の資料、相続人の戸籍などが必要)
- 証人2人以上の立ち会いのもと、公証役場で作成
- 原本は公証役場に保管される(正本・謄本を受け取ります)
メリットとデメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 方式の不備で無効になるおそれがほぼない | 費用がかかる(財産額に応じた手数料) |
| 原本が公証役場に保管され、紛失・改ざんの心配がない | 証人2人が必要 |
| 検認が不要 | 内容を証人に知られる |
| 字が書けなくても作成できる | 公証役場へ出向く必要がある(出張も可) |
判断能力に不安が出始めている場合、公証人が本人の意思を確認するため、後日「無効だ」と争われにくいという利点もあります。
秘密証書遺言
内容を秘密にしたまま、存在だけを公証役場で証明してもらう方式です。
実務ではほとんど使われていません。 内容のチェックがないため方式不備のリスクが残り、しかも検認は必要という中途半端な位置づけになるためです。
当センターでもお勧めしていません。
どれを選んでも、内容が悪ければ争いになります
形式より、中身のほうが重要です。
1. 遺留分を侵害していないか
配偶者・子・直系尊属には遺留分があります。 これを無視した遺言は、後から金銭の請求を受け、かえって争いのきっかけになります。
一方、兄弟姉妹には遺留分がありません。 お子さんのいないご夫婦にとって、遺言書が特に効くのはこのためです。
2. 財産の特定が曖昧でないか
「自宅を長男に」では、土地と建物のどちらか、共有持分はどうか、が不明確になります。登記事項証明書のとおりに特定してください。
3. 書いた後に増えた財産の受け皿があるか
遺言書を書いた後に取得した財産や、書き漏らした財産は、遺産分割協議が必要になります。「その他一切の財産は◯◯に相続させる」という条項があると防げます。
4. 遺言執行者を決めているか
遺言執行者がいないと、相続人全員の協力がないと手続きが進まない場面が出てきます。
5. 税額への影響を試算したか
分け方によって相続税の総額が変わります。 配偶者の税額軽減をどこまで使うか、小規模宅地等の特例をどの土地に適用するか。二次相続まで含めると、差はさらに大きくなります。
遺言書だけでは足りません
遺言書で決められるのは「財産を誰に渡すか」までです。
葬儀、納骨、行政手続き、公共料金や携帯電話の解約、住居の明け渡し、遺品整理——これらは遺言書では進みません。
税理士ができること・できないこと
遺言書の文案の作成は、当センターでは行いません。 提携する専門家におつなぎします。
当センターが行うのは次のことです。
- 財産の全体像の把握と評価
- 相続税の試算(この分け方だと税額はいくらになるか)
- 二次相続まで含めたシミュレーション
- 遺留分を侵害していないかの確認材料の提供
- 窓口の一本化と進行の管理
「誰に何を渡すか」を決める前に、税額への影響を知っておいてください。 良かれと思った分け方が、かえって負担を増やすことがあります。
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
都市部の遺言では「自宅をどうするか」が中心になります。
| 状況 | 遺言で考えること |
|---|---|
| 財産の大半が自宅 | 分けられない財産をどう扱うか。代償金の準備は現実的か |
| 賃貸物件がある | 収益と管理をセットで誰に渡すか |
| 借地・私道の持分がある | 持分の記載漏れに注意(売却時に発覚します) |
| 共有名義になっている | 持分だけを渡すと、共有が続きます |
新宿区の路線価では、自宅だけで数千万円になることが珍しくありません。 「長男に自宅、次男に預貯金」と書いたつもりが、実際には大きく不均衡になっていたというケースがあります。
遺言を書く前に、いまの評価額を確認してください。
よくある質問
Q1. 自筆証書と公正証書、どちらがよいですか。
A. 確実さを重視するなら公正証書です。方式の不備で無効になるおそれがほぼなく、原本が公証役場に保管されます。費用を抑えたいなら、法務局の保管制度を使った自筆証書が現実的です。3,900円で紛失を防げ、検認も不要になります。
Q2. パソコンで書いてもよいですか。
A. 本文は自筆でなければなりません。 ただし2019年から、財産目録の部分だけはパソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書を添付したりできるようになりました。その場合、各ページに署名押印が必要です。
Q3. 「令和8年9月吉日」と書いてもよいですか。
A. 無効になります。 日付は日まで特定しなければなりません。「吉日」は日が特定できないため、方式の不備とされます。
Q4. 法務局に預ければ、内容が有効だと保証されますか。
A. されません。 保管の際に確認されるのは、日付・署名押印といった外形的な形式です。遺留分を侵害していないか、内容が明確かどうかまでは見てもらえません。
Q5. 遺言書は書き直せますか。
A. 何度でも書き直せます。 内容が抵触する部分については、日付の新しいものが優先されます。公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。
Q6. 兄弟に何も残さない遺言を書けますか。
A. 書けます。兄弟姉妹には遺留分がありません。 「全財産を配偶者に相続させる」と書けばそのとおりになります。ただし、ご両親が健在の場合は直系尊属に遺留分がありますのでご注意ください。
Q7. 遺言執行者は決めたほうがよいですか。
A. 決めておくことをお勧めします。 遺言執行者がいれば、金融機関の手続きや相続登記を単独で進められます。いない場合、相続人全員の協力が必要になる場面が出てきます。
Q8. 遺言書の作成をお願いできますか。
A. 文案の作成は提携する専門家におつなぎします。 当センターが行うのは、財産の評価、相続税の試算、二次相続まで含めた分け方のシミュレーションです。税額への影響を確認したうえで文案を作るほうが、確実です。
まとめ
- 実務で使われるのは自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです
- 自筆証書は全文自筆・日付・氏名・押印。日付は日まで特定が必要です
- 財産目録だけはパソコン可(各ページに署名押印)
- 法務局の保管制度(1通3,900円)を使えば、紛失を防げ、検認も不要になります
- 公正証書遺言は方式の不備で無効になるおそれがほぼありません
- 秘密証書遺言は、実務ではほとんど使われていません
- 形式より内容です。遺留分・財産の特定・遺言執行者・税額への影響を確認してください
- 兄弟姉妹には遺留分がありません
- 遺言書だけでは、葬儀も納骨も解約手続きも進みません
ご相談のご案内
「誰に何を渡すか」を決める前に、税額への影響を確認してください。 良かれと思った分け方が、かえってご家族の負担を増やすことがあります。
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監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
相続・事業承継の相談実績3,000件超。手がけた相続税申告のうち、税務調査に至った割合は1%未満。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」を運営し、
登録者42,000人・累計729万回再生(2026年8月時点)。
出典
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度について
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4124 小規模宅地等の特例
※本記事の内容は2026年9月時点の法令に基づいています。実際の判断は個別の事情により異なりますので、必ず専門家にご相談ください。

