美術品・骨董品の相続税評価|「家財一式」で済ませると指摘されます
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年9月12日 最終更新日:2026年9月12日
【結論】価値のある絵画や壺を「家財一式」に混ぜることはできません
申告書で最も多い書き方が、これです。
家庭用財産 一式 300,000円
家具・家電・衣類であれば、この書き方で問題ありません。
財産評価基本通達128では、1個または1組の価額が5万円以下のものは、
一括して一世帯ごとの価額で評価してよいと定められています。
問題は、価値のある美術品を、この中に混ぜてしまうことです。
書画骨とう品は、通達135で別に定められた評価方法があります。
5万円以下の一括評価の対象ではありません。
| 財産 | 評価方法 | 根拠 |
|---|---|---|
| 家具・家電・衣類(1個5万円以下) | 一括して「家財一式」 | 財産評価基本通達128 |
| 1個5万円を超える一般動産 | 個別に評価 | 財産評価基本通達128・129 |
| 書画骨とう品 | 売買実例価額・精通者意見価格等を参酌 | 財産評価基本通達135 |
「価値があるか分からないから、家財一式に入れておいた」
これが、税務調査で最も指摘される形です。
書画骨とう品の評価方法
通達135は、書画骨とう品を2つに分けています。
① 販売業者が持っているもの
画廊・古美術商などが商品として持っているものです。
たな卸商品等として評価します。
② それ以外のもの(ご自宅にあるもの)
売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価します。
言葉が難しいので、分解します。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 売買実例価額 | 同じ作家の同程度の作品が、実際にいくらで取引されているか |
| 精通者意見価格 | 美術鑑定士・古美術商など、その分野に精通した人の評価額 |
実務では、ほとんどの場合「精通者意見価格」=鑑定評価を取ります。
鑑定はどこに頼むのか
- 美術品鑑定事務所
- 取り扱い実績のある画廊・古美術商
- 作家の鑑定登録機構(作家ごとに鑑定団体があるものは、そこが最も確実です)
- オークションハウス(落札見込価格の査定)
費用の目安は、1点あたり数万円〜10万円程度です。
点数が多い場合は、まとめての査定で単価が下がることもあります。
鑑定費用は、相続税から引けません
ここは、はっきりお伝えしておきます。
財産を評価するための費用は、債務控除の対象になりません。
相続税から差し引けるのは、被相続人の債務と葬式費用です。
鑑定費用・税理士報酬・戸籍の取得費用などは、いずれも相続人が負担する費用であり、
債務控除できません。
つまり、鑑定費用は自己負担です。
だからこそ、どの品を鑑定にかけるかの見極めが重要になります。
鑑定にかけるべきもの・かけなくてよいもの
すべてを鑑定にかける必要はありません。
判断の基準を示します。
鑑定を取るべきもの
| 該当するもの | 理由 |
|---|---|
| 購入時の価格が100万円を超えるもの | 金額が大きく、指摘されたときの影響が大きい |
| 購入時の領収書・鑑定書・保証書があるもの | 書類がある=税務署も把握しやすい |
| 著名な作家の作品(日本画・洋画・陶芸・彫刻) | 市場価格が形成されており、評価が確定しやすい |
| 落款・銘のある刀剣・茶道具 | 登録証がある刀剣は、存在自体が記録に残ります |
| 重要文化財・登録有形文化財の指定があるもの | 指定の事実が公開されています |
鑑定が不要なことが多いもの
| 該当するもの | 考え方 |
|---|---|
| 百貨店で買った複製画・版画(数万円) | 1個5万円以下なら家財一式に含められます |
| 観光地の土産物の工芸品 | 市場価格がほぼつきません |
| 量産品の食器・花瓶 | 同上 |
| 作家不明の掛け軸(評価額が数万円以下と見込まれるもの) | 同上。ただし桐箱・箱書きがある場合は確認を |
迷ったら、まず写真を撮ってください。
処分や譲渡の前に記録を残すことが、後の説明材料になります。
「申告しなくても分からない」は、成り立ちません
率直に申し上げます。美術品の申告漏れは、見つかります。
税務署が把握する経路は、主に5つです。
| 経路 | 内容 |
|---|---|
| 通帳の出金履歴 | 画廊・オークションへの数百万円の支払いが残っています |
| 保険契約 | 美術品に動産総合保険をかけていれば、その記録が残ります |
| 自宅の実地調査 | 調査官は応接間・床の間・蔵を必ず見ます |
| オークション・画廊の記録 | 取引先に対する調査で把握されます |
| 相続人の売却 | 相続後に売却すると、買取業者側の記録に残ります |
特に効くのが、2番目の保険契約です。
「価値があるから保険をかけた」という事実が、そのまま「価値がある証拠」になります。
保険金額が評価額の目安として扱われることもあります。
指摘されたときの負担
申告漏れが見つかると、本来の相続税に加えて次の負担がかかります。
| 種類 | 割合 |
|---|---|
| 過少申告加算税 | 原則 10%(期限内申告税額または50万円を超える部分は15%) |
| 隠ぺい・仮装があった場合の重加算税 | 35% |
| 延滞税 | 法定納期限の翌日から、納付の日まで |
「知らなかった」なら加算税10%ですが、「隠した」と判断されると35%になります。
意図的に隠すことだけは、絶対に避けてください。
【重要】値下がりしても、税額は下がりません
美術品の相続で、最も残酷なのがこの点です。
評価の基準時は、相続開始時(亡くなった日)です。
その後に市場が冷え込んで価値が半分になっても、相続税は亡くなった日の評価額で計算されます。
具体例で示します。
亡くなった日の評価額 3,000万円
相続税の税率(この方の場合) 30%
相続税 900万円1年後、売却しようとしたら 1,200万円でしか売れなかった
手元に残るのは 1,200万円 − 900万円 = 300万円
3,000万円の財産を相続したのに、手元に残るのは300万円です。
さらに、売却時にも税金がかかります
美術品を売って利益が出れば、譲渡所得として所得税・住民税がかかります。
ただし、生活用動産の特例があります。
生活に通常必要な動産の譲渡による所得は非課税ですが、
1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・書画・骨とう品は、この非課税から除かれます。
つまり、価値のある美術品の売却益には課税されます。
取得費が分からない場合は、収入金額の5%を取得費とすることができます。
購入時の領収書が残っていれば、それが取得費になります。
亡くなった方が買ったときの価格で計算できますので、領収書は必ず探してください。
納税資金が足りないときの選択肢
美術品は換金に時間がかかる財産です。
相続税の納期限は申告期限と同じ10か月です。
① 売却して納税する
最も一般的です。ただし買い手がつくまでに数か月かかることがあります。
急いで売ると、二束三文になります。
オークションは年に数回しか開催されないものもあり、出品のタイミングを逃すと半年待ちになります。
② 延納
相続税を分割で納める制度です。利子税がかかります。
不動産等の割合によって、延納できる期間が変わります。
③ 物納
財産そのもので納める制度です。
ただし物納には順位があり、動産は優先順位が低く設定されています。
美術品での物納は、原則として認められにくいのが実情です。
例外があります。
「登録美術品」については、物納の優先順位が上がります。
文化庁長官の登録を受けた美術品は、不動産等と同じ第1順位として扱われ、
物納に充てることが現実的になります。
ただし、登録には事前の手続きが必要です。
亡くなってから慌てて登録することはできません。
相続税は分割払いできる?延納・物納の条件と、その前にやるべきこと
生前にできる2つの備え
① 目録と鑑定書を作っておく
これが最も効果的で、費用もかかりません。
作るべき内容は次のとおりです。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 作家名・作品名 | 分かる範囲で |
| 制作年 | 落款・箱書きから |
| 購入時期・購入価格 | 領収書を一緒に保管 |
| 購入先 | 画廊名・オークション名 |
| 鑑定書・保証書の有無 | ある場合は保管場所 |
| 保険の有無 | 保険会社・保険金額 |
これがないと、ご家族は「何がいくらの価値なのか」がまったく分かりません。
実際のご相談で最も困るのが、床の間に20本の掛け軸があるが、作家も購入価格も不明という状態です。
全部鑑定にかけると費用がかさみ、かけないと申告漏れのリスクが残ります。
エンディングノートと遺言書の違い|法的効力があるのはどちらか
② 特定の美術品の納税猶予を検討する
重要文化財・登録有形文化財(美術工芸品)などの特定美術品について、
相続税の納税が猶予される制度があります(租税特別措置法70条の6の7)。
猶予される割合は、課税価格の80%に対応する相続税額です。
ただし、要件は厳しいです。
- 文化財保護法の保存活用計画の認定を受けていること
- 美術館と寄託契約を結び、継続して寄託・公開していること
- 相続人が引き続き寄託を継続すること
寄託をやめると、猶予されていた税額と利子税を納めることになります。
対象になる品は限られます。 一般のご家庭の美術品では、まず該当しません。
該当しそうな品をお持ちの場合は、生前に文化庁の手続きから始める必要があります。
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
この3区では、美術品の申告漏れの指摘が相対的に多くなります。
理由は2つあります。
1つ目は、そもそも財産全体の規模が大きいため、税務調査の対象になりやすいことです。
東京都の相続税の課税割合は全国平均の約2倍です。
この3区は、その東京都内でもさらに高い水準にあります。
2つ目は、画廊・古美術商が都心に集中していることです。
税務署が取引先調査をしたときに、都内の顧客は把握されやすくなります。
| 地方の傾向 | 新宿・中野・世田谷 | |
|---|---|---|
| 美術品の保有 | 少ない | 保有世帯の割合が高い |
| 購入先 | 通販・地元の店 | 都心の画廊・オークション |
| 税務署の把握 | 難しい | 取引記録から把握されやすい |
さらに、土地の評価額が大きいため、美術品が「課税されるかどうか」の境界に乗りやすくなります。
基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を土地だけで超えているご家庭では、
美術品の評価額がそのまま最高税率帯で課税されます。
1,000万円の絵画が、税率40%の帯に乗れば、400万円の税額差です。
新宿区の相続税|土地評価が難しい街で損をしないために
土地評価は税理士で差が出る|同じ土地で評価額が変わる理由
よくある質問
Q1. 100万円で買った絵画は、申告しなければなりませんか。
A. 原則として申告が必要です。
書画骨とう品は、1個5万円以下の一括評価(家財一式)の対象外です。
評価額は購入価格ではなく、相続開始時の売買実例価額・精通者意見価格等で決まります。
購入時100万円でも、現在の市場価格が1万円ということもあります。
まず、その作家の作品が今いくらで取引されているかを確認してください。
Q2. 価値が分からない骨董品は、どう申告すればよいですか。
A. 写真を撮り、箱書き・落款・付属の書類を確認してください。
そのうえで、取り扱い実績のある古美術商か鑑定機関に査定を依頼します。
査定の結果「市場価格がつかない」と判断されたものは、
家庭用財産に含めて評価することになります。
査定を取った記録を残しておくこと自体が、調査の際の説明材料になります。
Q3. 鑑定費用は相続税から引けますか。
A. 引けません。
相続税から差し引けるのは、被相続人の債務と葬式費用です。
鑑定費用・税理士報酬・戸籍の取得費用は、いずれも相続人が負担する費用であり、
債務控除の対象外です。
Q4. 相続した絵画を売りました。税金はかかりますか。
A. 利益が出れば、譲渡所得として所得税・住民税がかかります。
生活に通常必要な動産の譲渡は非課税ですが、
1個または1組の価額が30万円を超える書画・骨とう品・貴金属は、この非課税から除かれます。
取得費は、亡くなった方が購入したときの価格を引き継げます。
領収書がなければ、収入金額の5%を取得費とすることができます。
なお、相続税の申告期限から3年以内に売却した場合、相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。
Q5. 美術品で相続税を納めることはできますか。
A. 原則として難しいです。
物納には順位があり、動産は優先順位が低く設定されています。
ただし、文化庁長官の登録を受けた「登録美術品」は、不動産等と同じ第1順位として扱われます。
登録には生前からの手続きが必要で、亡くなってから登録することはできません。
Q6. 亡くなった後に家族が美術品を処分してしまいました。問題になりますか。
A. 申告が必要だった財産であれば、問題になります。
処分しても、相続開始時に存在していた財産は課税対象です。
買取業者側に取引記録が残るため、調査で把握されます。
処分してしまった場合は、売却金額・売却先・売却日を記録し、申告に含めてください。
隠すと、重加算税35%の対象になり得ます。
Q7. 家財一式はいくらで申告すればよいですか。
A. 一律の基準はありません。
1個5万円以下のものを一括して、一世帯ごとの実態に応じた価額で評価します。
実務上は10万円〜50万円程度で申告されることが多いですが、
ご家庭の実態と乖離した金額は、根拠を説明できません。
価値のある美術品・貴金属・会員権などを、ここに混ぜないことが最も重要です。
Q8. 刀剣を相続しました。何か手続きが必要ですか。
A. 相続税の申告とは別に、銃砲刀剣類登録証の名義変更が必要です。
所有者が変わってから20日以内に、登録証を交付した都道府県の教育委員会に届け出ます。
登録証がない刀剣は、所持自体が認められません。
登録証がある刀剣は、その存在が公的に記録されていますので、申告漏れはまず把握されます。
評価は、他の書画骨とう品と同様に精通者意見価格等によります。
まとめ
- 書画骨とう品は、1個5万円以下の一括評価(家財一式)の対象外です(財産評価基本通達135)
- 評価は売買実例価額・精通者意見価格等を参酌して決めます
- 鑑定費用は債務控除できません。 自己負担です
- 「申告しなければ分からない」は成り立ちません。 通帳・保険契約・実地調査から把握されます
- 意図的に隠すと、重加算税35%の対象になり得ます
- 評価の基準時は相続開始時。 その後値下がりしても税額は下がりません
- 売却益には所得税がかかります(1個30万円超の書画骨とう品は非課税の対象外)
- 美術品での物納は原則困難。 例外は登録美術品のみで、生前の登録が必要です
- 生前にできる最善の備えは、目録と領収書・鑑定書の整理です
ご相談のご案内
「親が絵や壺を集めていたが、価値が分からない」というご相談は少なくありません。
すべてを鑑定にかける必要はありません。
どの品を評価対象とし、どの品を家庭用財産に含めるかの見極めが、実務の要所です。
当センターでは、鑑定が必要な品の選別から、鑑定機関のご紹介、
評価額を踏まえた納税資金の計画までをまとめてご相談いただけます。
生前のご相談であれば、目録の作り方と、納税資金の準備までお手伝いできます。
📞 0120-75-1234(9:00〜19:00/平日・土曜・日祝も受付)
💻 24時間WEB相談予約はこちら
監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
相続・事業承継の相談実績3,000件超。手がけた相続税申告のうち、税務調査に至った割合は1%未満。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」を運営し、
登録者42,000人・累計729万回再生(2026年8月時点)。
※美術品の鑑定は、鑑定機関・美術商の業務です。当センターは相続税の評価と申告を担当し、
必要に応じて提携する鑑定機関をご紹介します。
出典
- 国税庁 財産評価基本通達
- 国税庁 No.4126 相続財産が分割されていないときの申告
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務
- 国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
- 国税庁 No.4211 相続税の延納
- 国税庁 No.4214 相続税の物納
- 文化庁 美術品をお持ちの方々へ(登録美術品制度のご案内)
- 文化庁 特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度について
- 国税庁 No.2024 確定申告を忘れたとき(加算税・延滞税)
※本記事の内容は2026年9月時点の法令に基づいています。記事中の金額は説明のための例です。

