代償分割とは?自宅を分けられないときの現実的な解決策と、税金の注意点
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年9月12日 最終更新日:2026年9月12日
【結論】書き方を間違えると、贈与税がかかります
代償分割とは、1人の相続人が不動産などを取得する代わりに、他の相続人へ現金を支払う方法です。自宅しか財産がないご家庭で、住み続けたい人が住み続けながら、他の相続人にも取り分を渡せます。東京では最も現実的な解決策になることが多い方法です。ただし、遺産分割協議書の書き方を間違えると、支払った代償金が贈与とみなされ、受け取った側に贈与税がかかります。防ぐ方法は簡単で、協議書に「代償分割として支払う」旨を明記するだけです。そしてもうひとつ。現金ではなく自分の不動産を渡すと、渡した側に譲渡所得税が発生します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| どんな方法か | 1人が現物を取得し、他の相続人へ現金を支払う |
| いつ使うか | 自宅しか財産がない/事業用資産を分けたくない/共有を避けたい |
| 最大の注意点 | 協議書に「代償分割」と明記しないと贈与税 |
| 現金以外で払うと | 渡した側に譲渡所得税が発生します |
| 相続税の総額 | 変わりません(負担の配分だけが変わります) |
| 支払う側の課税価格 | 取得した財産の価額 − 支払った代償金 |
| 受け取る側の課税価格 | 取得した財産の価額 + 受け取った代償金 |
遺産の分け方は4つあります
代償分割の位置づけを、先に整理します。
| 方法 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 財産をそのまま分ける | 現金・株式など、分けやすい財産が中心のとき |
| 代償分割 | 1人が現物を取得し、他へ現金を払う | 自宅しかない/事業を継がせたい |
| 換価分割 | 売って現金で分ける | 誰も住まない/全員が現金化を希望 |
| 共有分割 | 持分で共有する | 原則おすすめしません(下記参照) |
共有分割をおすすめしない理由
その場は丸く収まりますが、問題を先送りするだけです。
- 売却・建て替えに共有者全員の同意が必要になります
- 次の相続で持分がさらに細分化します
- 共有者が亡くなれば、会ったこともない親族と共有することになります
- 固定資産税の負担や修繕費の分担で揉めます
東京の不動産では、この先送りが特に高くつきます。
代償分割の具体例
【前提】 遺産は自宅7,000万円と預貯金500万円、合計7,500万円。
相続人は長男(同居)と次男の2人。法定相続分は各3,750万円。
現物分割だと成立しません
| 相続人 | 取得するもの | 金額 |
|---|---|---|
| 長男 | 自宅 | 7,000万円 |
| 次男 | 預貯金 | 500万円 |
次男の取り分が3,250万円足りません。 次男が納得しません。
代償分割なら
| 相続人 | 取得するもの | 代償金 | 最終的な取り分 |
|---|---|---|---|
| 長男 | 自宅 7,000万円 | △3,250万円 | 3,750万円 |
| 次男 | 預貯金 500万円 | +3,250万円 | 3,750万円 |
長男は自宅に住み続けられ、次男も法定相続分を受け取れます。
ただし長男は3,250万円の現金を用意しなければなりません。 ここが最大の壁です。
【最重要】協議書の書き方で、贈与税がかかるかどうかが決まります
代償金の支払いは、外から見れば「長男から次男への送金」です。
遺産分割協議書に代償分割である旨が書かれていないと、
単なる贈与とみなされ、次男に贈与税がかかります。
❌ 悪い例
一、次の財産は長男 天尾一郎が取得する。
土地 東京都新宿区西新宿七丁目〇番〇
建物 同所 家屋番号〇番〇
一、次の財産は次男 天尾二郎が取得する。
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇これだけでは、その後の3,250万円の送金が説明できません。
✅ 良い例
一、次の財産は長男 天尾一郎が取得する。
土地 東京都新宿区西新宿七丁目〇番〇
建物 同所 家屋番号〇番〇
一、次の財産は次男 天尾二郎が取得する。
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇
一、長男 天尾一郎は、前項の財産を取得した代償として、
次男 天尾二郎に対し、金3,250万円を支払うものとする。
支払期限 令和〇年〇月〇日
支払方法 次男 天尾二郎の指定する口座へ振り込む「代償として」という一文があるかどうかで、税金が変わります。
あわせて、支払期限と支払方法も書いてください。 後で揉めないためです。
相続税はどう計算するか
代償分割をしても、相続税の総額は変わりません。
変わるのは誰がいくら負担するかだけです。
課税価格の計算
| 立場 | 計算 |
|---|---|
| 代償金を支払った人 | 取得した財産の価額 − 支払った代償金 |
| 代償金を受け取った人 | 取得した財産の価額 + 受け取った代償金 |
先ほどの例で、自宅の相続税評価額が5,000万円だった場合
| 相続人 | 計算 | 課税価格 |
|---|---|---|
| 長男 | 5,000万円 − 3,250万円 | 1,750万円 |
| 次男 | 500万円 + 3,250万円 | 3,750万円 |
| 合計 | 5,500万円 |
遺産の相続税評価額の合計(5,000万+500万=5,500万円)と一致します。
時価で決めた代償金には、調整の方法があります
代償金は通常、実際に売れる価格(時価)を基準に決めます。
一方、相続税は路線価などの相続税評価額で計算します。
この2つがずれていると、代償金を払った側の課税価格が不当に小さくなることがあります。
代償財産の価額を、次の算式で調整することが認められています
(国税庁 No.4173)。
代償金 ×(代償財産を交付した人が取得した財産の相続税評価額 ÷
その財産の代償分割の時における通常の取引価額)
全員の合意があれば、この調整を行うことができます。
ここは税理士に相談すべき部分です。 自己流でやると税額が変わります。
現金以外で払うと、譲渡所得税がかかります
代償金は現金で払うのが原則です。
自分がもともと持っていた不動産や株式を渡すと、
その資産を時価で売ったものとみなされ、渡した側に譲渡所得税が発生します。
【例】 長男が、自分が以前から持っていた土地(取得費500万円・時価3,000万円)を
代償として次男へ渡した場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 時価 | 3,000万円 |
| 取得費 | △500万円 |
| 譲渡所得 | 約2,500万円 |
長男に所得税・住民税がかかります。
「現金がないから、土地で払おう」は危険です。 必ず事前にご相談ください。
代償金をどう用意するか
これが実務上の最大の課題です。
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 生命保険 | 受取人を、現物を取得する人に指定しておく | 最も確実。 生前の備えが必要です |
| 手持ちの預貯金 | 自己資金から支払う | 数千万円は簡単ではありません |
| 分割払い | 協議書に支払期限を分けて記載 | 必ず協議書に明記してください |
| 金融機関からの借入れ | 不動産を担保に | 審査・金利の負担 |
| 一部を換価分割に | 一部を売って現金を作る | 自宅の一部売却は現実的でないことも |
生命保険が最も確実な理由
保険金は受取人固有の財産で、遺産分割の対象になりません。
自宅を継ぐ長男を受取人にしておけば、その保険金をそのまま代償金に充てられます。
さらに500万円 × 法定相続人の数までは非課税です。
【備えの例】 自宅7,000万円・預貯金500万円・相続人2人のご家庭
| 生前にやること | 効果 |
|---|---|
| 長男を受取人とする生命保険 3,500万円に加入 | 代償金の原資が確保できます |
| 遺言書で「自宅は長男に」と指定 | 遺産分割協議が不要になります |
| 付言事項で理由を書く | 次男の納得を得やすくなります |
この3つで、自宅を売らずに済みます。
生命保険金は相続税の対象?500万円×法定相続人の非課税枠
生前にできる相続対策一覧|効果と注意点を10種類まとめて比較
代償分割が使えないケース
| ケース | 理由 |
|---|---|
| 代償金を用意できない | 支払えない約束は、後で紛争になります |
| 相続人が合意しない | 遺産分割協議には全員の合意が必要です |
| 財産の評価額で揉めている | いくら払うかが決まりません |
| 未成年の相続人がいて、親も相続人 | 特別代理人の選任が必要です |
評価額で揉めるケースは実際に多くあります。
相続税評価額(路線価)と実際に売れる価格は違います。
「路線価では5,000万円だが、売れば7,000万円」——どちらを基準に代償金を決めるかで
争いになります。
不動産鑑定士の評価を取ることもありますが、費用がかかります。
まずは複数の不動産会社の査定を取り、幅を把握するところからです。
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
この3区では、代償分割が最も使われる分割方法です。
理由は明確で、財産に占める自宅の割合が圧倒的に高いからです。
| 全国平均の傾向 | 新宿・中野・世田谷 | |
|---|---|---|
| 自宅の評価額 | 数百万〜2,000万円台 | 5,000万〜1億円超 |
| 分けやすさ | 預貯金で調整できる | 預貯金では到底足りません |
そして代償金の額が大きくなるため、用意できないことが多くなります。
実際のご相談で多いのが、この形です。
「自宅を売りたくない。でも弟に払う3,000万円がない。
結局、売って分けるしかないと言われた」
生前に備えていれば、避けられました。
もうひとつ、東京特有の注意点があります。
自宅を売ると、小規模宅地等の特例の要件を満たさなくなることがあります。
同居していた相続人が取得し、申告期限まで保有・居住を続けることが条件の区分があるためです。
「代償金が払えないから売る」という判断が、税額まで押し上げます。
7,000万円の土地なら、特例が使えるかどうかで評価額が5,600万円変わります。
分け方を決める前に、税額まで含めて試算してください。
よくある質問
Q1. 代償金を払うと、贈与税がかかりますか。
A. 遺産分割協議書に「代償として支払う」旨が書かれていれば、かかりません。
書かれていないと、単なる贈与とみなされ、受け取った側に贈与税がかかります。
「代償として」の一文を必ず入れてください。支払期限と支払方法も書いておくと確実です。
Q2. 代償分割をすると、相続税は増えますか。
A. 相続税の総額は変わりません。 変わるのは誰がいくら負担するかです。
支払った人は取得財産から代償金を引き、受け取った人は取得財産に代償金を足して
課税価格を計算します。
Q3. 現金がありません。土地で払ってもよいですか。
A. できますが、譲渡所得税がかかります。 自分がもともと持っていた資産を渡すと、
時価で売ったものとみなされます。 取得費が安い土地だと、多額の所得税が発生します。
事前に必ず試算してください。
Q4. 分割払いにできますか。
A. できます。 ただし遺産分割協議書に、支払期限と支払回数を必ず明記してください。
口約束では後で揉めます。支払いが滞った場合の取り決めも書いておくことをおすすめします。
Q5. 代償金はいくらにすればよいですか。
A. 通常は実際に売れる価格(時価)を基準に決めます。
ただし相続税は路線価などの相続税評価額で計算するため、ずれが生じます。
国税庁は代償財産の価額を調整する算式を示しており、全員の合意があれば使えます。
ここは税理士にご相談ください。
Q6. 共有にしておけばよいのではないですか。
A. おすすめしません。 売却・建て替えに全員の同意が必要になり、
次の相続で持分がさらに細分化します。会ったこともない親族と共有することにもなります。
問題を先送りしているだけで、東京の不動産では特に高くつきます。
Q7. 代償金を払う約束をしたのに、払われませんでした。
A. 遺産分割協議書があれば、履行を請求できます。
ただし協議書に支払期限が書かれていないと、請求が難しくなります。
公正証書で作成しておけば、強制執行も可能です。協議書の作成段階で手を打ってください。
Q8. 誰に相談すればよいですか。
A. 協議書の作成は弁護士・司法書士・行政書士、登記は司法書士の業務です。
当センターでは財産の評価、代償金の適正額の検討、相続税の試算を担当し、
提携する専門家をご紹介します。代償分割は税額に直結するため、
協議書を作る前にご相談ください。
まとめ
- 代償分割は、1人が現物を取得し、他の相続人へ現金を支払う方法です
- 自宅しか財産がないご家庭で、最も現実的な解決策になります
- 遺産分割協議書に「代償として」と明記しないと、贈与税がかかります
- あわせて支払期限・支払方法も書いてください
- 相続税の総額は変わりません。 変わるのは負担の配分だけです
- 課税価格は、支払った人は引く/受け取った人は足す
- 時価と相続税評価額のずれは、国税庁の示す算式で調整できます
- 現金以外で払うと、渡した側に譲渡所得税が発生します
- 代償金の原資は、生命保険が最も確実です(受取人を現物取得者に)
- 共有分割は問題の先送りです。東京では特に高くつきます
- 自宅を売ると、小規模宅地等の特例を失うことがあります
ご相談のご案内
「自宅を売らずに分けたい」というご相談は、非常に多くいただきます。
代償金の適正額、税額への影響、原資の用意まで含めて試算します。
生前であれば、生命保険と遺言書で確実に備えられます。
すでに相続が始まっている場合も、協議書を作る前にご相談ください。
書き方ひとつで贈与税がかかります。
📞 0120-75-1234(9:00〜19:00/平日・土曜・日祝も受付)
💻 24時間WEB相談予約はこちら
監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
相続・事業承継の相談実績3,000件超。手がけた相続税申告のうち、税務調査に至った割合は1%未満。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」を運営し、
登録者42,000人・累計729万回再生(2026年8月時点)。
出典
- 国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 財産評価基本通達
- e-Gov 民法
※本記事の内容は2026年9月時点の法令に基づいています。記事中の金額は説明のための例です。

