特別受益とは?生前にもらった分を、遺産分割でどう調整するか
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年9月19日 最終更新日:2026年9月19日
【結論】「兄だけ家を建ててもらった」を、遺産分割で調整する仕組みです
「長男は家の頭金を出してもらった。でも私は何ももらっていない」
遺産分割でもめる原因の、上位に来る話です。
この不公平を調整するのが、特別受益(とくべつじゅえき)です。
生前にもらった分を、いったん遺産に戻して計算し直します。
もらった人は、その分だけ取り分が減ります。
これを持ち戻しといいます。
ただし、注意してほしいことが3つあります。
- もらったもの全部が特別受益になるわけではありません
- 相続開始から10年を過ぎると、主張できなくなります
- 相続税の「7年以内の生前贈与加算」とは、まったくの別物です
何が特別受益になるのか
民法903条は、次のものを特別受益としています。
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、
または婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた者があるとき
具体的には、こうなります。
| もらったもの | 特別受益になるか |
|---|---|
| 住宅の購入資金・建築資金 | なります(典型例です) |
| 事業を始めるための資金 | なります |
| 土地や建物をもらった | なります |
| 遺言で特定の財産をもらった(遺贈) | なります |
| 大学・大学院の学費 | 家庭の状況によります(後述) |
| 結婚のときの持参金・支度金 | なることが多いです |
| 結納金・挙式費用 | ならないとされることが多いです |
| お小遣い、生活費の援助 | 通常はなりません |
| 生命保険金 | 原則としてなりません(後述) |
学費は、家庭の水準で判断されます
「兄だけ私立の医学部に行った」というご相談はよくあります。
学費が特別受益になるかは、その家庭の生活水準や、他の子との扱いの差で判断されます。
- きょうだい全員が大学に進学している → 特別受益とされにくい
- 1人だけ多額の学費がかかっている → 特別受益とされることがあります
「大学に行かせてもらった=特別受益」ではありません。
生命保険金は、原則として特別受益になりません
受取人が指定された生命保険金は、受取人固有の財産です。遺産ではありません。
ただし、遺産全体に比べて著しく高額な場合に、特別受益に準じて持ち戻しの対象とされた裁判例があります。
極端な設計は避けてください。
計算してみます
遺産が6,000万円。相続人は子3人。長男だけが住宅資金として1,200万円をもらっていた。
手順1 いったん遺産に戻します
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相続開始時の遺産 | 6,000万円 |
| + 長男の特別受益 | 1,200万円 |
| みなし相続財産 | 7,200万円 |
手順2 相続分を計算します
| 相続人 | 計算 | 一応の相続分 |
|---|---|---|
| 長男 | 7,200万円 × 1/3 | 2,400万円 |
| 次男 | 7,200万円 × 1/3 | 2,400万円 |
| 三男 | 7,200万円 × 1/3 | 2,400万円 |
手順3 もらった分を差し引きます
| 相続人 | 一応の相続分 | 特別受益 | 実際に受け取る額 |
|---|---|---|---|
| 長男 | 2,400万円 | △1,200万円 | 1,200万円 |
| 次男 | 2,400万円 | — | 2,400万円 |
| 三男 | 2,400万円 | — | 2,400万円 |
長男の取り分が半分になりました。 これが持ち戻しです。
なお、特別受益がもらいすぎだった場合でも、返す必要はありません。
その人の取り分がゼロになるだけです(民法903条2項)。
昔の贈与は、「今の価額」に直して計算します
ここが、実務でいちばんもめるところです。
贈与を受けたときの金額ではなく、相続開始時の価額に引き直して計算するのが原則です。
現金の場合
物価の変動を考慮して引き直すという考え方が取られます。
ただ、実際の協議では贈与時の額をそのまま使うことも多く、当事者の合意次第です。
不動産の場合
ここで大きな差が出ます。
| 贈与時(30年前) | 相続開始時(現在) | |
|---|---|---|
| 新宿区の土地 | 2,000万円 | 6,000万円 |
特別受益として持ち戻すのは、6,000万円です。2,000万円ではありません。
都心の不動産では、贈与から相続までの間に評価額が数倍になっていることも珍しくありません。
「昔もらった土地だから大した額ではない」という感覚は、通用しないことがあります。
なお、もらった人がその不動産を売ってしまっていても、
「そのまま持っていたものとして」相続開始時の価額で計算します。
寄与分とは、向きが逆です
特別受益と寄与分は、セットで考えるものです。
| 内容 | 効果 | |
|---|---|---|
| 特別受益 | 生前に多くもらった人がいる | その人の取り分が減ります |
| 寄与分 | 財産の維持・増加に貢献した人がいる | その人の取り分が増えます |
「兄は家を建ててもらった。私は10年介護した」
このようなケースでは、両方を同時に主張することになります。
そして、どちらも相続開始から10年で主張できなくなります。
寄与分とは?介護や家業の貢献で取り分を増やせる条件と、嫁が使える特別寄与料
【重要】相続開始から10年を過ぎると、主張できません
2023年(令和5年)4月1日から、大きな制限ができました。
相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、
具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)による。(民法904条の3)
具体的相続分とは、特別受益や寄与分を加味した取り分のことです。
つまり、10年を過ぎると「兄は家をもらっている」という主張ができなくなります。
| 10年以内 | 10年経過後 | |
|---|---|---|
| 特別受益の主張 | できます | できません |
| 寄与分の主張 | できます | できません |
| 分ける基準 | 具体的相続分 | 法定相続分 |
例外は2つです
① 10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
② 10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができない
やむを得ない事由があった場合において、その事由の消滅時から6か月経過前に請求したとき
また、相続人全員が合意すれば、10年経過後でも具体的相続分による分割はできます。
逆に言えば、1人でも反対すれば法定相続分です。
「そのうち話し合おう」と10年放置すると、権利そのものが消えます。
共有名義の不動産を相続したら|共有のまま放置すると起きること
持ち戻しを免除することもできます
被相続人が「この贈与は遺産分割で考慮しなくてよい」という意思を示していれば、
持ち戻しは行いません(民法903条3項)。これを持戻し免除の意思表示といいます。
遺言書に、こう書いておく形が確実です。
「長男に贈与した住宅資金については、遺産分割において持ち戻しを要しないものとする。」
夫婦間の自宅の贈与は、免除が「推定」されます
2019年7月1日の改正で、次のルールができました(民法903条4項)。
婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が、他方配偶者に対し、
その居住用建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合については、
民法第903条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定します。
つまり、長年連れ添った配偶者に自宅を贈与した場合、特別なことを書かなくても持ち戻さない扱いになります。
残された配偶者の生活を守るための改正です。
なお、贈与税には「おしどり贈与」と呼ばれる配偶者控除(婚姻20年以上・2,000万円まで)があります。
名前も要件も似ていますが、民法のこのルールとは別の制度です。
遺留分では、期間の扱いが違います
ここは混乱しやすいところです。制度ごとに、さかのぼる期間が違います。
| 制度 | さかのぼる期間 | 何のため |
|---|---|---|
| 特別受益(遺産分割) | 原則として期間の制限なし ただし相続開始から10年で主張できなくなる | 相続人どうしの公平 |
| 遺留分の基礎財産 | 相続人への贈与は相続開始前10年以内 相続人以外は1年以内 | 最低限の取り分の保障 |
| 相続税の生前贈与加算 | 相続開始前7年以内(2024年改正) | 課税の公平 |
3つとも別の制度で、年数も違います。
「7年以内の贈与だけ考えればいい」というのは、相続税の話です。
遺産分割では、20年前、30年前の住宅資金も特別受益になり得ます。
遺留分侵害額請求とは?1年の時効と、2019年の改正で変わったこと
生前贈与の7年ルールとは?2024年の改正で何が変わったか
相続税の計算には、特別受益は関係しません
特別受益は、あくまで民法(遺産の分け方)の話です。
相続税の計算は、次のように進みます。
| 見るもの | |
|---|---|
| 遺産分割 | 特別受益・寄与分を加味した具体的相続分 |
| 相続税 | 実際に取得した財産+相続開始前7年以内の贈与 |
30年前の住宅資金は、遺産分割では調整されますが、相続税には加算されません。
逆に、5年前の110万円の贈与は、相続税では加算されますが、特別受益にはならないことが多いです。
この2つを混同すると、話がかみ合わなくなります。
証拠がないと、主張は通りません
「兄は家を建ててもらったはずだ」という記憶だけでは、認められません。
| 使える資料 | 入手先 |
|---|---|
| 贈与契約書 | 手元、または相手方 |
| 預金の取引履歴 | 金融機関(相続人は請求できます) |
| 不動産の登記事項証明書 | 法務局(誰でも取得できます) |
| 贈与税の申告書の控え | 手元、または税務署(一定の手続きで確認できる場合があります) |
| 住宅の売買契約書・領収書 | 手元 |
預金の取引履歴は、金融機関に請求すれば相続人単独で取れます。
10年分は保存されていることが多く、まずここから始めるのが現実的です。
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
都心では、特別受益がとくに争点になりやすくなります。
理由ははっきりしています。
| 事情 | 影響 |
|---|---|
| 住宅の価格が高い | 頭金の援助額が大きく、不公平が目立ちます |
| 二世帯住宅が多い | 同居した子の建築資金負担をどう見るかでもめます |
| 自宅の割合が大きい | 遺産が自宅中心で、調整に使える現金が少ない |
| 地価が高い | 昔の贈与でも、当時の価額の評価で争いになります |
そして、新宿区は自宅に小規模宅地等の特例を使えるかどうかで税額が大きく変わります。
分け方を決める前に、税額まで含めた試算をしてください。
当センターは相続税の申告と生前対策だけを扱っています。
「兄だけ援助を受けていた」という段階でも、資料の集め方からご相談いただけます。
〒160-0023 東京都新宿区西新宿7丁目19-5 KYS西新宿ビル1階
東京メトロ丸ノ内線「西新宿」駅から徒歩約5分/各線「新宿」駅から徒歩10分
受付時間 9:00〜19:00(土日祝も対応)
よくある質問
Q1. 何年前の贈与まで、特別受益になりますか
遺産分割では、原則として期間の制限はありません。 30年前の住宅資金でも対象になり得ます。
ただし、相続開始から10年を過ぎると主張できなくなります(民法904条の3)。
Q2. 相続税の「7年以内の生前贈与加算」と同じですか
まったく別の制度です。 7年ルールは相続税の計算のためのもの、特別受益は遺産の分け方のためのものです。
年数も目的も違います。
Q3. 大学の学費は特別受益になりますか
家庭の生活水準や、他のきょうだいとの扱いの差で判断されます。
全員が進学している家庭なら、特別受益とされにくい傾向があります。
Q4. 生命保険金は特別受益ですか
原則としてなりません。 受取人固有の財産だからです。
ただし、遺産全体に比べて著しく高額な場合、持ち戻しの対象とされた裁判例があります。
Q5. もらいすぎていた場合、返さなければいけませんか
返す必要はありません。 その人の取り分がゼロになるだけです(民法903条2項)。
ただし、遺留分を侵害していれば、別途請求されることがあります。
Q6. 持ち戻しをしないでほしいのですが
遺言書に持戻し免除の意思表示を書いておいてください。
なお、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与・遺贈した場合は、免除が推定されます。
Q7. 昔の贈与は、いつの時点の価額で計算しますか
相続開始の時点の価額に引き直して計算するのが原則です。
贈与時の金額そのままではありません。不動産では大きな差が出ます。
Q8. 証拠がありません。どうすればいいですか
まず預金の取引履歴を金融機関に請求してください。相続人は単独で請求できます。
不動産であれば、登記事項証明書で取得の時期と原因(贈与か売買か)が分かります。
まとめ
- 特別受益は、生前にもらった分を遺産に戻して公平に分け直す仕組みです
- 対象は婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与と、遺贈
- 住宅資金・事業資金・不動産が典型例。学費は家庭の状況によります
- 生命保険金は原則として対象外ですが、著しく高額な場合は例外があります
- 相続開始から10年を過ぎると、主張できなくなります(民法904条の3)
- 持戻し免除の意思表示で調整しないこともできます
- 婚姻20年以上の夫婦間の居住用不動産は、免除が推定されます(2019年7月1日〜)
- 相続税の7年ルールとは別の制度です。混同しないでください
- 主張には預金履歴・登記・契約書などの資料が要ります
監修者
天尾 信之(あまお のぶゆき)
税理士/東京税理士会 登録番号 第136528号
税理士法人Ambitious 代表社員
相続・事業承継の相談実績3,000件超。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」(登録者4.2万人)で、相続の実務を発信しています。
出典
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
(持戻し免除の意思表示の推定・2019年7月1日施行)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
- 法務省「具体的相続分による遺産分割の時的限界」(民法904条の3)
https://www.moj.go.jp/content/001372212.pdf
- 国税庁タックスアンサー No.4452「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm
- 国税庁タックスアンサー No.4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm

