ペットに財産を残す方法|遺言では残せません。使えるのは3つの仕組みです
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年9月12日 最終更新日:2026年9月12日
【結論】「愛犬に1,000万円を遺贈する」という遺言は、効きません
ご相談で、実際にこう言われることがあります。
「この子に全財産を残したいんです」
お気持ちは、よく分かります。
ですが、この遺言書は法律上、効力を持ちません。
理由は、日本の法律ではペットが「物」として扱われるからです。
財産を受け取るには権利の主体である必要がありますが、
その資格があるのは人(自然人)と法人だけです。
犬や猫は、財産を「所有される側」であって、「所有する側」にはなれません。
ですので、こう考えてください。
| 誤った発想 | 正しい発想 |
|---|---|
| ペットに財産を残す | ペットの世話をする人に、世話を条件として財産を渡す |
つまり、お金の行き先は人間です。
そのお金が確実にペットのために使われる仕組みを作る、というのが課題になります。
そして、ペット自体も相続財産です。
誰かが相続人として引き取ることになります。
引き取る人を決めておかないと、行き先が決まりません。
使える仕組みは3つです
| 仕組み | 確実性 | 費用 | 向いている方 |
|---|---|---|---|
| ① 負担付遺贈 | △ 放棄されることがあります | 低い(遺言書の作成費用のみ) | 信頼できる親族がいる方 |
| ② 負担付死因贈与 | ○ 契約なので放棄されにくい | 低〜中 | 受け取る人と事前に話せる方 |
| ③ ペット信託(民事信託) | ◎ 最も確実 | 高い(設計・契約・信託報酬) | 確実性を最優先したい方 |
順に説明します。
① 負担付遺贈
「ペットの世話をすることを条件に、財産を遺贈する」という遺言です(民法1002条)。
遺言書の書き方
第○条 遺言者は、遺言者の所有する次の財産を、甥の○○(昭和○年○月○日生)に遺贈する。
一 現金 500万円
二 猫1匹(名称「○○」、○年○月生まれ、マイクロチップ番号○○○)第○条 前条の遺贈を受ける○○は、その負担として、前条二の猫が死亡するまで、
愛情をもって飼育し、必要な診療・ワクチン接種を受けさせるものとする。第○条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として○○を指定する。
ポイントは3つです。
1つ目は、ペットを特定することです。
マイクロチップ番号まで書いてください。 種類と名前だけでは、特定が不十分になります。
2つ目は、負担の内容を具体的に書くことです。
「大切にする」では、履行されたかどうかが判定できません。
3つ目は、遺言執行者を指定することです。
負担が履行されているかを見る人がいないと、仕組みが機能しません。
最大の弱点:受遺者は遺贈を放棄できます
ここを隠さずにお伝えします。
受遺者は、遺贈を放棄できます(民法986条)。
「500万円はありがたいけれど、15年間この子の世話をするのは無理だ」
と言われたら、それで終わりです。
そして、放棄されたときにペットの行き先がなくなります。
負担を履行しない場合
放棄されずに受け取ったものの、世話をしない場合です。
このとき、相続人または遺言執行者は、期間を定めて履行を催告し、
それでも履行されなければ、家庭裁判所に遺言の取消しを請求できます(民法1027条)。
ただし、これは誰かが動かなければ実現しません。
見張る人がいなければ、ただ財産だけが渡ります。
負担付遺贈を使うなら、必ず遺言執行者を指定してください。
② 負担付死因贈与
生前に契約を結んでおく方法です。
「私が亡くなったら500万円を渡します。その代わり、この子の世話をしてください」
という合意を、契約書にします。
負担付遺贈との違い
| 負担付遺贈 | 負担付死因贈与 | |
|---|---|---|
| 形式 | 遺言(一方的) | 契約(双方の合意) |
| 相手の了承 | 不要(知らせなくてもよい) | 必要 |
| 放棄 | できます | 一方的にはできません |
| 確実性 | △ | ○ |
最大の利点は、相手が了承済みであることです。
遺言と違って、相手が「引き受ける」と意思表示したうえで成立しています。
「知らなかった」「無理だ」という事態が起きません。
公正証書にしておくと、より確実です。
注意点
受贈者が負担の一部または全部を履行した後は、贈与者から一方的に撤回することが難しくなります。
たとえば、相手が先に生活の世話を始めてくれている場合です。
「やっぱり別の人に頼みたい」という変更が、しにくくなります。
相手を慎重に選んでください。
③ ペット信託(民事信託)
最も確実な方法です。
仕組みはこうなります。
| 役割 | 誰が担うか |
|---|---|
| 委託者 | 飼い主ご本人 |
| 受託者 | 財産を管理し、飼育費を支払う人(親族・法人) |
| 受益者 | 飼い主ご本人 → 亡くなった後は飼育を担う人 |
| 飼育者 | 実際に世話をする人(受託者と別でも構いません) |
| 信託監督人 | 受託者がきちんと支払っているかを見る人(弁護士など) |
肝は、お金を管理する人と、世話をする人を分けられることです。
飼育者には、毎月の飼育費として定額を渡します。
お金をまとめて渡さないため、使い切られるリスクがなくなります。
ペット信託が優れている3つの点
1つ目は、生前から効力を持たせられることです。
入院したときや、施設に入ったときから機能します。
遺言は亡くなった後しか効きません。ここが決定的な違いです。
おひとりさまの場合、最も困るのは「亡くなる前の入院期間」です。
3か月入院している間、誰がペットの世話をするのか。遺言書では解決できません。
2つ目は、監督する人を置けることです。
信託監督人を置けば、受託者が勝手に使っていないかをチェックできます。
3つ目は、余ったお金の行き先を決められることです。
ペットが亡くなった後、残った信託財産を誰に渡すか(帰属権利者)を決められます。
世話をしてくれた方に渡す、動物保護団体に寄付する、といった設計ができます。
費用がかかります
これが唯一の欠点です。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 信託契約書の作成(設計を含む) | 30万〜80万円程度 |
| 公正証書化の費用 | 数万円 |
| 信託監督人の報酬 | 月額 数千円〜数万円 |
| 信託口口座の開設 | 金融機関により異なります |
ペットの飼育費そのものより、仕組みの費用が大きくなることがあります。
判断の目安をお伝えします。
- 信頼できる親族がいて、その方が引き受けてくれる → ②の負担付死因贈与で十分です
- 頼れる人がいない、または複数の動物がいる → ③のペット信託を検討する価値があります
- 飼育費の総額が数百万円規模になる(大型犬・馬・多頭飼い) → ③
税金はどうなるか
受け取る人にかかる税金
遺贈でも死因贈与でも、かかるのは相続税です(贈与税ではありません)。
ここで重要なのが、負担額の扱いです。
負担付遺贈の場合、課税価格は「負担がないものとした場合の価額 − 負担額」になります。
具体例で示します。
遺贈する財産 現金 500万円
負担(飼育費相当) 300万円課税価格 = 500万円 − 300万円 = 200万円
負担額をどう見積もるかが、実務のポイントになります。
飼育費の根拠を示せるようにしておいてください。
ペットの年齢・平均余命・年間の飼育費(フード・医療費・ワクチン・トリミング)から計算します。
目安としてはこうなります。
| 動物 | 年間の飼育費の目安 | 残りの寿命 | 総額の目安 |
|---|---|---|---|
| 小型犬(8歳) | 15万〜25万円 | 約7年 | 約105万〜175万円 |
| 猫(10歳) | 10万〜20万円 | 約6年 | 約60万〜120万円 |
| 大型犬(5歳) | 25万〜40万円 | 約7年 | 約175万〜280万円 |
加えて、高齢期の医療費が大きくなります。
手術や慢性疾患の治療で、年間50万円を超えることもあります。
余裕を持たせた金額にしておいてください。
【要注意】法定相続人以外への遺贈は、2割加算です
甥・姪・友人・知人に遺贈する場合、相続税が2割増しになります。
2割加算の対象になる人・ならない人を整理します。
| 受け取る人 | 2割加算 |
|---|---|
| 配偶者・子・父母 | ありません |
| 兄弟姉妹 | あります |
| 甥・姪 | あります |
| 友人・知人(法定相続人でない人) | あります |
| 代襲相続人である孫 | ありません |
| 孫養子(代襲相続人でない場合) | あります |
甥に世話を頼むケースが最も多いのですが、ここは2割加算の対象です。
1,000万円を遺贈して相続税が100万円かかる場合、120万円になります。
ペット信託の場合
信託を設定した時点で、受益者が信託財産を取得したものとして扱われます。
飼い主ご本人が受益者である間は、課税関係は生じません。
亡くなって受益者が変わるときに、新しい受益者に相続税がかかります。
設計によって課税のタイミングが変わりますので、必ず事前に確認してください。
動物保護団体への寄付
選択肢として、公益法人等への遺贈もあります。
公益社団法人・公益財団法人・認定NPO法人などへの遺贈は、
一定の要件のもとで相続税が課されない扱いになります。
ただし、団体によって受け入れ条件が異なります。
「ペットを引き取ってもらえるか」は、団体ごとに大きく違います。
必ず生前に直接問い合わせて、書面で確認してください。
「引き取ってもらえると思っていた」という前提で遺言を書くのは危険です。
【重要】遺留分に注意してください
「全財産をペットの世話をする人に」という遺言は、問題を起こします。
配偶者・子・父母には、遺留分があります。
| 相続人 | 遺留分 |
|---|---|
| 配偶者のみ/子のみ | 財産の1/2 |
| 配偶者と子 | 財産の1/2 |
| 父母のみ | 財産の1/3 |
| 兄弟姉妹 | ありません |
遺留分を侵害すると、遺言の内容に関係なく、金銭での請求を受けます。
請求された側は、現金で支払わなければなりません。
飼育費として渡したお金から支払うことになり、仕組みが崩れます。
対処は2つです。
1つ目は、遺留分を侵害しない金額に抑えることです。
財産が2,000万円で子が1人なら、遺留分は1,000万円です。
ペットのために使える上限は1,000万円と考えてください。
2つ目は、生命保険を使うことです。
生命保険金は、原則として遺留分の計算の基礎になる財産に含まれません。
受取人を世話をする方にしておけば、遺留分の問題を避けながら資金を渡せます。
ただし、財産全体に対して保険金の割合が著しく高い場合は、例外的に持ち戻しの対象とされた裁判例があります。
極端な設計は避けてください。
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
この3区では、ペット信託のご相談が他の地域より多くなります。
理由は、単身世帯の割合が高いことと、財産規模が大きいことの2つです。
| 全国平均の傾向 | 新宿・中野・世田谷 | |
|---|---|---|
| 単身高齢世帯 | — | 割合が高い地域です |
| 頼れる親族 | 近隣に住んでいることが多い | 遠方・不在が多い |
| 財産規模 | 基礎控除内が多い | 自宅だけで基礎控除を超えます |
「頼れる親族がいないが、財産はある」という状況が、最もペット信託に向いています。
ただし、この地域特有の落とし穴があります。
財産の大半が自宅で、現金が少ないことです。
飼育費を渡すためのお金が、手元にないのです。
このとき必要になるのは、飼育費の現金化の計画です。
- 生命保険に加入して、受取人を世話をする方にする(最も確実です)
- 自宅を売却して資金化する計画を、生前に立てておく
- 自宅を信託財産に入れ、売却して飼育費に充てる設計にする
3番目は、家族信託でよく使う設計です。
自宅を信託財産にしておけば、受託者が売却して飼育費に充てられます。
ご本人が認知症になった後は、自宅を売ることができません。
生前に仕組みを作っておくことが、そのまま解決策になります。
おひとりさまが生前に準備すべき5つの契約【チェックリスト付き】
おひとりさまの相続|財産の行き先と、生前にすべきこと
よくある質問
Q1. 「愛犬に財産を相続させる」という遺言書は有効ですか。
A. 無効です。
日本の法律では、ペットは物として扱われます。
財産を受け取れるのは人(自然人)と法人だけです。
正しくは、ペットの世話をする人に、世話を条件として財産を渡す形にします。
これを負担付遺贈といいます(民法1002条)。
Q2. 負担付遺贈を受けた人が、世話をしなかったらどうなりますか。
A. 相続人または遺言執行者が、期間を定めて履行を催告できます。
それでも履行されなければ、家庭裁判所に遺言の取消しを請求できます(民法1027条)。
ただし、誰かが気づいて動かなければ何も起きません。
必ず遺言執行者を指定してください。
Q3. 負担付遺贈は、相手に断られることがありますか。
A. あります。 受遺者は遺贈を放棄できます(民法986条)。
これが負担付遺贈の最大の弱点です。
断られる可能性を避けたいなら、生前に合意する「負担付死因贈与」か、
「ペット信託」を使ってください。
Q4. ペット信託にはいくらかかりますか。
A. 契約書の作成(設計を含む)で30万〜80万円程度、
信託監督人を置く場合は月額数千円〜数万円が目安です。
このほか、公正証書化の費用と信託口口座の開設費用がかかります。
飼育費そのものより仕組みの費用が大きくなることがあります。
信頼できる親族がいる場合は、負担付死因贈与で十分なことも多いです。
Q5. ペットの世話をする人に渡す財産に、相続税はかかりますか。
A. かかります。
ただし、課税価格は「負担がないものとした場合の価額 − 負担額」になります。
500万円を遺贈し、飼育費相当の負担が300万円であれば、課税価格は200万円です。
負担額の根拠(ペットの年齢・平均余命・年間飼育費)を示せるようにしておいてください。
Q6. 甥に頼む場合、税金が増えると聞きました。
A. 2割加算の対象になります。
甥・姪・兄弟姉妹・友人知人など、法定相続人以外への遺贈は、
相続税が2割増しになります。
100万円の税額なら120万円です。遺贈額を決めるときに織り込んでください。
Q7. 動物保護団体に寄付して、引き取ってもらうことはできますか。
A. 団体によって大きく異なります。
「財産の寄付は受けるが、動物の引き取りは行わない」団体も少なくありません。
必ず生前に直接問い合わせて、書面で確認してください。
公益社団法人・公益財団法人・認定NPO法人への遺贈は、
一定の要件のもとで相続税が課されない扱いになります。
Q8. 入院中のペットの世話は、どう備えればよいですか。
A. 遺言書では解決できません。 遺言は亡くなった後しか効きません。
生前から効力を持つ仕組みが必要です。
① ペット信託(入院時から飼育費を支払えます)
② 任意後見契約(判断能力が落ちた後の財産管理)
③ 預かり先との契約(ペットホテル・シッター・預託施設と事前に契約)
おひとりさまの場合、ここが最も抜けやすい部分です。
入院期間が最も危険です。必ず備えておいてください。
まとめ
- ペットは法律上「物」です。 財産を受け取る側にはなれません
- 正しい発想は、世話をする人に、世話を条件として財産を渡すことです
- ① 負担付遺贈(民法1002条)は手軽ですが、放棄されることがあります(民法986条)
- ② 負担付死因贈与は契約なので、相手の了承済みで確実性が高まります
- ③ ペット信託が最も確実。生前から効力を持ち、監督人を置けます。 費用は30万〜80万円
- 負担付遺贈の課税価格は、負担額を控除した額です
- 甥・姪・友人への遺贈は2割加算の対象です
- 遺留分を侵害しない金額に抑えてください。生命保険を使う方法もあります
- 最も危険なのは入院期間です。 遺言書では対処できません
ご相談のご案内
「この子を残して死ねない」というお気持ちから始まるご相談を、多くいただきます。
仕組みは、必ずあります。
ただし、どの仕組みが合うかは、ご家族の状況と財産の中身で変わります。
頼れる親族がいるかどうか。現金がいくらあるか。遺留分を持つ相続人がいるか。
ここを整理しないまま遺言書を書くと、かえって揉める原因になります。
当センターでは、飼育費の見積りから、遺留分の確認、税額の試算、
信託か遺贈かの選択までをまとめてご相談いただけます。
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監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
相続・事業承継の相談実績3,000件超。手がけた相続税申告のうち、税務調査に至った割合は1%未満。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」を運営し、
登録者42,000人・累計729万回再生(2026年8月時点)。
※遺言書・死因贈与契約書・信託契約書の作成は、弁護士・司法書士・行政書士の業務です。
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出典
- e-Gov 民法(第986条・第1002条・第1027条・第1046条)
- e-Gov 信託法
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4157 相続税額の2割加算
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4108 相続税がかからない財産
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 相続税法基本通達
- 環境省 ペットの適正飼養
※本記事の内容は2026年9月時点の法令に基づいています。記事中の金額は説明のための例です。
飼育費の目安は一般的な相場であり、個体差・地域差があります。

