遺言書の撤回・書き直し|「破り捨てる」だけで撤回になる場合とならない場合

監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。

公開日:2026年9月20日 最終更新日:2026年9月20日


【結論】撤回はいつでもできます。ただし方法を間違えると残ります

遺言書は、何度でも書き直せます。

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、
その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法第1022条)

「いつでも」です。理由も、相手の同意も必要ありません。
そして、この権利を放棄することもできません(民法第1026条)。

「絶対に書き直さないと約束する」という書面を作っても、その約束は無効です。

ただし、撤回のやり方を間違えると、古い遺言が生き残ります。

とくに危険なのが、次の2つです。

よくある誤解実際
公正証書遺言の手元の正本を破り捨てれば撤回できるできません。原本は公証役場にあります
新しい遺言を書けば、古い遺言は全部無効になる違います。抵触する部分だけが撤回されます

この2つを知らないまま書き直すと、亡くなった後に混乱します。


撤回の方法は、4つあります

① 新しい遺言書を書く(いちばん確実です)

最も一般的で、最も安全な方法です。

新しい遺言書に、撤回の一文を明記してください。

「遺言者は、令和〇年〇月〇日付で作成した遺言をすべて撤回する。」

この一文があるかないかで、結果が変わります。

この一文があれば、古い遺言は全部撤回されます。
なければ、抵触する部分だけが撤回されます(詳しくは後述します)。

② 遺言書を破棄する

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、
その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす(民法第1024条)

「故意に」が条件です。

状況撤回になるか
自分で破り捨てたなります
自分で焼いた・シュレッダーにかけたなります
火事や水害で失われたなりません(故意ではありません)
家族が勝手に破り捨てたなりません(遺言者の行為ではありません)

最後の行が重要です。

家族が勝手に処分しても、その遺言は法律上は有効なままです。
(そのうえ、相続人がこれをすれば相続欠格に当たり得ます。)

破棄で撤回するなら、必ずご本人の手で行ってください。

③ 遺贈の目的物を処分する

民法1024条の後半と、1023条2項です。

遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合についても、
後の行為で前の遺言を撤回したものとみなします(民法1023条2項)

結果
「自宅を長男に相続させる」と書いた後、その自宅を売ったその部分は撤回されたとみなされます
「A銀行の預金をBに」と書いた後、A銀行の口座を解約した同じです

生前に売ってしまえば、その遺言は自然に消えます。

ただし、ほかの部分は生きています。
「自宅は撤回、残りは有効」という、中途半端な状態になります。

④ 新しい遺言で、古い遺言と違う内容を書く

これが民法1023条です。次の章で詳しく説明します。


【最重要】「新しい遺言を書けば全部無効」ではありません

遺言の撤回で抵触する部分だけが撤回されることを示した図。令和5年の遺言が自宅は長男・預金は長女・株式は次男で、令和8年に自宅を長女とだけ書いた場合、自宅は長女に変わるが、預金と株式は令和5年の遺言が生きたまま2通が併存する。撤回を撤回しても元の遺言は復活しない

ここが、いちばん誤解されているところです。

前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、
後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす(民法第1023条)

「その抵触する部分については」です。

具体例で見てください

令和5年の遺言

財産渡す相手
自宅長男
預金長女
株式次男

令和8年の遺言(撤回の一文なし)

財産渡す相手
自宅長女

結果はこうなります。

財産有効な指定根拠
自宅長女(令和8年)抵触するので、後の遺言が優先
預金長女(令和5年)抵触しないので、令和5年の遺言が生きています
株式次男(令和5年)同じく生きています

「古い遺言は破り捨てたから大丈夫」と思っていても、
公正証書なら原本が公証役場に残っています。

2通の遺言が併存し、相続人が両方を持ち出して争う——これが実際に起きます。

だから、新しい遺言には必ず撤回の一文を入れてください。

遺言書の種類と選び方|自筆証書と公正証書のどちらにすべきか


公正証書遺言の撤回は、こうします

公正証書遺言も、もちろん撤回できます。

そして重要な点として、撤回の方式は問われません。

民法1022条の「遺言の方式に従って」は、遺言の方式のどれかであればよいという意味です。
公正証書遺言を、自筆証書遺言で撤回することもできます。

撤回の方法可否
新しい公正証書遺言で撤回するできます(推奨)
新しい自筆証書遺言で撤回するできます
手元の正本・謄本を破り捨てるできません

正本を破っても撤回にならない理由

公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されます。
ご本人が持っているのは、正本または謄本(写し)です。

写しを破っても、原本は残ります。

そして、相続開始後、相続人は公証役場の遺言検索システムで遺言の有無を調べられます。
「破ったから見つからない」ことは、まずありません。

公正証書遺言を撤回するなら、新しい公正証書で撤回するのが最も安全です。

法務局保管の自筆証書遺言も同じです

自筆証書遺言書保管制度を使っている場合、原本は法務局にあります。

やること内容
撤回する法務局に撤回書を提出します(遺言者本人が出頭します)
内容を変える撤回してから、新しく保管を申請します
手元の控えを破る撤回になりません

「保管されている」制度は、勝手に消せないのが利点であり、注意点でもあります。


【落とし穴】撤回を撤回しても、復活しません

これを知らない方が、ほとんどです。

撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、
又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。
ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。(民法第1025条)

つまり、こうなります

順番行為
令和5年遺言A(自宅は長男へ)を作成
令和7年遺言B(遺言Aを撤回する)を作成
令和8年「やっぱりAがよかった」と思い、遺言Bを撤回

結果:遺言Aは復活しません。

遺言Aも遺言Bもない状態、つまり「遺言なし」になります。
法定相続分で、相続人全員で遺産分割協議をすることになります。

「元に戻したい」なら、Aと同じ内容を新しく書き直してください。

例外は、撤回が錯誤・詐欺・強迫によるものだった場合だけです。
(家族に脅されて撤回した場合などです。)


書き直しを検討すべきタイミング

遺言書は「一度作って終わり」ではありません。

こんなことがあったら理由
離婚・再婚した相続人が変わります
子や孫が生まれた渡す相手を見直す必要があります
受遺者が亡くなった遺贈は無効になり、代襲しません(民法994条)
不動産を売った・買った特定した財産がなくなると、その部分は空振りします
法律が変わった2019年の遺留分の改正、2023年の登記の改正などがありました
税制が変わった基礎控除・特例の要件が変わることがあります
家族関係が変わった介護を担う人が変わった、など

目安は、5年ごと、または上のことが起きたときです。

ただし、認知症になった後は書き直せません

撤回も、遺言という法律行為です。

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない(民法第963条)

つまり、判断能力を失った後は、撤回も書き直しもできません。

状態書き直し
判断能力があるできます
軽度で、医師の診断や公証人の確認を経られるできる場合があります(公正証書が安全です)
判断能力を失ったできません

「いつか直そう」と思っているうちに、直せなくなります。

そして、成年後見人は本人の代わりに遺言を作ることも撤回することもできません。
法定代理では、絶対にできない行為です。

判断能力があるうちに、財産の管理と承継を仕組みにしておくという考え方が必要です。

家族信託とは?認知症対策としての使いどころと、向かないケース

財産を特定して書くときの注意

「自宅を長男に」と書いていても、その後に売却すればその部分は撤回されます。
買い替えた新しい家は、遺言に書かれていません。

買い替えたら、必ず書き直してください。

包括遺贈と特定遺贈の違い|「全財産の3分の1」と書くと、借金も付いてきます


「撤回できない約束」は、死因贈与です

「絶対に書き直さない」と約束したいなら、遺言では無理です。

民法1026条により、撤回権の放棄はできません。

確実性が必要なら、死因贈与という契約の形になります。

遺言死因贈与
撤回いつでもできます原則できますが、負担を履行済みなら制限されます
仮登記できませんできます
不動産取得税相続人以外への特定遺贈のみかかります

「介護してくれたら家をあげる」という約束を確実にしたいなら、死因贈与を検討してください。
ただし、税金の負担が増えます。

死因贈与と遺言の違い|「死んだら渡す」約束は、税金も登記も変わります


【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】

都心では、書き直しが必要になる場面が多くあります。

ご事情なぜ書き直しが必要か
自宅を売って住み替えた特定した財産がなくなり、その部分は空振りします
相続税評価額が大きく上がった分け方のバランスが崩れ、遺留分を侵害することがあります
賃貸物件を買い増した遺言に書かれていない財産が増えています
子が海外に出た手続きの負担が変わります

とくに新宿区・中野区・世田谷区では、地価の上昇で財産のバランスが変わります。

10年前は「自宅5,000万円、預金5,000万円」で公平だった分け方が、
いまは「自宅8,000万円、預金3,000万円」になっていることがあります。

遺留分を侵害していないか、いま一度の確認をおすすめします。

遺留分侵害額請求とは?1年の時効と、2019年の改正で変わったこと

当センターは相続税の申告と生前対策だけを扱っています。
遺言書の作成・撤回そのものは公証役場や司法書士・弁護士の領域ですが、
「いまの財産で、その分け方だと相続税がいくらになるか」「遺留分を侵害していないか」の試算は、お手伝いできます。

遺言書をお持ちの方は、作成時期と現在の財産の一覧をご用意ください。

〒160-0023 東京都新宿区西新宿7丁目19-5 KYS西新宿ビル1階
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相続税申告の料金表はこちら / 事務所概要・アクセス


よくある質問

Q1. 遺言書は何回でも書き直せますか

できます。 民法1022条により、いつでも、全部または一部を撤回できます。
撤回する権利を放棄することもできません(民法1026条)。

Q2. 新しい遺言を書けば、古い遺言は無効になりますか

抵触する部分だけです(民法1023条)。
抵触しない部分は、古い遺言が生きています。「すべて撤回する」の一文を必ず入れてください。

Q3. 遺言書が2通見つかったら、どちらが有効ですか

日付が新しいほうが優先されますが、古いほうも抵触しない部分は有効です。
両方を突き合わせて判断することになります。

Q4. 公正証書遺言の正本を破り捨てれば撤回できますか

できません。 原本は公証役場に保管されています。
新しい遺言(自筆証書でも可)で撤回してください。

Q5. 公正証書遺言を、自筆証書遺言で撤回できますか

できます。 撤回は「遺言の方式に従って」行えばよく、同じ方式である必要はありません。
ただし、確実性の面では新しい公正証書のほうが安全です。

Q6. 家族が遺言書を破り捨てました

撤回になりません。 民法1024条の「故意に」は遺言者本人の行為を指します。
また、相続人がこれをすれば相続欠格に当たり得ます。

Q7. 撤回した遺言を復活させたいです

復活しません(民法1025条)。撤回を撤回しても、元の遺言は戻りません。
同じ内容を新しく書き直してください。

Q8. 法務局に保管した自筆証書遺言はどう撤回しますか

法務局に撤回書を提出します(遺言者本人が出頭します)。
手元の控えを破っても撤回になりません。

Q9. 遺言に書いた不動産を売ってしまいました

その部分は撤回されたとみなされます(民法1023条2項)。
買い替えた不動産は遺言に書かれていないので、必ず書き直してください。

Q10. どのくらいの頻度で見直すべきですか

目安は5年ごと、または離婚・再婚・出生・受遺者の死亡・不動産の売買・法改正があったときです。

Q11. 認知症になってからでも書き直せますか

判断能力を失った後はできません(民法963条)。
成年後見人が代わりに遺言を作ったり撤回したりすることもできません。


まとめ

  • 遺言書はいつでも、何度でも撤回・書き直しできます(民法1022条)
  • 撤回する権利を放棄することはできません(民法1026条)
  • 撤回の方法は4つ ——新しい遺言/破棄/目的物の処分/抵触する内容を書く
  • 「新しい遺言を書けば全部無効」は誤り。抵触する部分だけです(民法1023条)
  • だから、新しい遺言に「すべて撤回する」の一文を必ず入れてください
  • 公正証書の正本を破っても撤回になりません。原本は公証役場にあります
  • 公正証書遺言は、自筆証書遺言でも撤回できます
  • 家族が勝手に破り捨てても、撤回にはなりません(相続欠格になり得ます)
  • 撤回を撤回しても、元の遺言は復活しません(民法1025条)
  • 不動産を売ったら、その部分は自動的に撤回されます。買い替えたら書き直してください
  • 判断能力を失った後は、撤回も書き直しもできません(民法963条)。後見人が代わりに行うこともできません
  • 見直しの目安は5年ごと、または家族・財産・法律が変わったとき

監修者

天尾 信之(あまお のぶゆき)
税理士/東京税理士会 登録番号 第136528号
税理士法人Ambitious 代表社員

相続・事業承継の相談実績3,000件超。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」(登録者4.2万人)で、相続の実務を発信しています。


出典

  • e-Gov法令検索「民法」第963条(遺言能力)・第1022条〜第1027条(遺言の撤回及び取消し)

https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度」

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

  • 日本公証人連合会「2 遺言」

2 遺言


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