相続分の譲渡とは?かかる税金と、相続放棄との決定的な違い

監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年9月13日 最終更新日:2026年9月13日
【結論】譲渡しても、借金の支払義務は消えません
相続分の譲渡とは、遺産全体に対する自分の取り分(相続分)を、他の人に譲ることです。
「もう関わりたくない」「兄に全部任せたい」という理由で使われます。
ですが、ここを誤解したまま進める方が非常に多いので、先にお伝えします。
相続分を譲渡しても、あなたは相続人のままです。
債権者から借金の支払いを求められたら、応じなければなりません。
相続分の譲渡は、相続人どうしの内部の取り決めにすぎません。
お金を貸した側(債権者)には対抗できないのです。
借金から逃れたいのであれば、使うべきは相続放棄です。
相続分の譲渡とは何か
民法905条に、相続分の譲渡を前提とした規定があります。
譲れるのは、個別の財産ではなく「遺産全体に対する割合」です。
| 内容 | |
|---|---|
| 譲れるもの | 遺産全体に対する自分の取り分(例:4分の1) |
| 譲れないもの | 「この土地だけ」といった個別の財産 |
| 譲る相手 | 他の相続人でも、相続人以外の第三者でも構いません |
| 期限 | 遺産分割が終わるまで(相続放棄のような3か月の期限はありません) |
| 方式 | 決まった様式はありません。書面で残してください |
他の相続人は、取り戻すことができます
第三者に譲渡した場合、他の相続人には取戻権があります(民法905条)。
譲渡があったことを知ってから1か月以内に、その価額と費用を償還すれば、
相続分を取り戻せます。
まったく知らない人が遺産分割協議に入ってくるのを防ぐための制度です。
相続放棄・相続分の放棄との違い
言葉が似ている3つを、はっきり区別してください。
| 相続分の譲渡 | 相続分の放棄 | 相続放棄 | |
|---|---|---|---|
| 中身 | 取り分を特定の人に譲る | 取り分を放棄する(他の相続人の割合が増える) | 最初から相続人でなかったことになる |
| 相続人の地位 | 残ります | 残ります | なくなります |
| 借金の支払義務 | 残ります | 残ります | なくなります |
| 期限 | 遺産分割が終わるまで | 遺産分割が終わるまで | 3か月(知った時から) |
| 手続き | 当事者間(書面が望ましい) | 当事者間 | 家庭裁判所へ申述 |
| 次順位への影響 | ありません | ありません | 次の順位に相続権が移ります |
| 譲る相手を選べるか | 選べます | 選べません(全員の割合が増えます) | 選べません |
使い分けの目安
| こうしたい | 使うもの |
|---|---|
| 借金があるので関わりたくない | 相続放棄(3か月以内) |
| 財産はプラスだが、特定の人にまとめたい | 相続分の譲渡 |
| 財産はプラスだが、自分は要らない(誰にとは決めない) | 相続分の放棄 |
| 3か月を過ぎてしまったが、遺産は要らない | 相続分の譲渡・放棄(ただし借金は残ります) |
⚠️ 「相続放棄したつもり」が、最も危険です。
遺産分割協議書に「何も相続しない」と署名しただけでは、相続放棄にはなりません。
借金の支払義務は残ります。
かかる税金は、4つの組み合わせで決まります
「有償か無償か」×「相手が相続人か、相続人以外か」で変わります。
| 相続人へ譲渡 | 相続人以外へ譲渡 | |
|---|---|---|
| 無償 | 贈与税はかかりません。譲り受けた相続人の相続分が増え、その分に相続税がかかります | 譲った人に相続税、譲り受けた人に贈与税 |
| 有償 | 譲った人に相続税(受け取った対価に対して)。譲り受けた人は取得した財産で相続税を計算 | 譲った人に相続税、および譲渡所得税がかかる場合があります |
1つずつ説明します。
① 相続人へ、無償で譲渡した場合
最も多いケースで、いちばんシンプルです。
贈与税はかかりません。
譲った人の相続分が0になり、譲り受けた人の相続分がその分増えるだけです。
相続税は、最終的に財産を取得した人が、取得した分について負担します。
例) 相続人が長男・次男・三男の3人。遺産6,000万円。
三男が自分の相続分(3分の1)を長男へ無償で譲渡した。→ 長男 4,000万円/次男 2,000万円/三男 0円として相続税を計算します。
② 相続人へ、有償で譲渡した場合
対価を受け取った場合です。
譲った人は、受け取った対価の額について相続税を負担します。
譲り受けた人は、取得した財産から支払った対価を差し引いた額で計算します。
考え方は代償分割に近くなります。
③ 相続人以外へ、無償で譲渡した場合
ここから注意が必要です。
税金が2回登場します。
| 誰に | 何の税金 |
|---|---|
| 譲った相続人 | 相続税(いったん相続したものとして) |
| 譲り受けた第三者 | 贈与税 |
相続税と贈与税が、別々の人にかかります。
そして贈与税は税率が高く、相続税より重くなることが珍しくありません。
④ 相続人以外へ、有償で譲渡した場合
譲った相続人に、相続税に加えて譲渡所得税がかかる場合があります。
相続分の中に土地や建物、株式などが含まれていれば、
それらを売ったのと同じように扱われるためです。
対価が取得費を上回れば、その差額に所得税・住民税がかかります。
【重要】2割加算に注意してください
相続人以外の人が財産を取得すると、相続税が2割増しになります。
| 取得する人 | 2割加算 |
|---|---|
| 配偶者・子・父母 | ありません |
| 兄弟姉妹・甥・姪 | あります |
| 友人・知人(法定相続人でない人) | あります |
| 代襲相続人である孫 | ありません |
「お世話になった人に相続分を譲りたい」という場面で、ここが効いてきます。
相続分の譲渡を使うべき場面・避けるべき場面
使う価値がある場面
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 相続人が多く、話がまとまらない | 譲渡で当事者を減らせば、協議が進みます |
| 疎遠な相続人がいる | その人に譲渡してもらえば、以後の手続きに関与しなくて済みます |
| 3か月を過ぎたが、遺産は要らない | 相続放棄はできませんが、譲渡はできます |
| 特定の人(同居の子など)にまとめたい | 相手を選べるのが、放棄との違いです |
避けたほうがよい場面
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 借金がある | 支払義務は残ります。 相続放棄を検討してください |
| 相続人以外へ譲りたい | 贈与税+2割加算で、負担が大きくなります |
| 遺産の中身がまだ分からない | 後から借金が見つかっても、譲渡では逃れられません |
| 不動産がある(有償の場合) | 譲渡所得税がかかる可能性があります |
手続きで気をつけること
① 必ず書面にしてください
決まった様式はありませんが、口約束は必ず揉めます。
書いておくべき内容です。
- 被相続人の氏名・死亡日
- 譲る人・譲り受ける人の氏名・住所
- 譲渡する相続分(「相続分全部」または「◯分の◯」)
- 無償か有償か。有償なら金額と支払方法
- 日付・署名・押印(実印と印鑑証明書が確実です)
② 不動産があるなら、登記の扱いを確認してください
相続分の譲渡があった場合の相続登記は、通常より複雑になります。
登記の可否や必要書類は事案によって変わりますので、司法書士にご確認ください。
③ 相続税の申告期限は変わりません
譲渡をしても、申告期限は亡くなった日の翌日から10か月のままです。
誰がいくら取得したかが確定していないと、申告できません。
譲渡の話が長引くと、期限に間に合わなくなります。
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
この3区では、相続分の譲渡が「現実的な解決策」になる場面があります。
理由は、財産の大半が自宅で、分けようがないことが多いためです。
令和8年分の最高路線価は、新宿税務署管内で3,424万円/㎡。
自宅の評価額が5,000万〜1億円になるご家庭では、
現金で清算しようにも、その現金がありません。
そこで、遠方に住む相続人が同居していた相続人へ相続分を譲渡する、という形が取られます。
ただし、判断の前に必ず試算してください。
- 小規模宅地等の特例を使えるのは誰か。 取得者が変わると使えなくなることがあります
- 2割加算の対象にならないか
- 代償分割のほうが有利ではないか
分け方を決めてから相談されると、選択肢がなくなっていることがあります。
よくある質問
Q1. 相続分を譲渡すれば、借金から逃れられますか。
A. 逃れられません。 相続分の譲渡は相続人どうしの内部の取り決めにすぎず、
債権者には対抗できません。あなたは相続人のままです。
債権者から支払いを求められたら応じる必要があります。
借金から逃れたい場合は、相続放棄(知った時から3か月以内・家庭裁判所への申述)です。
Q2. 相続分の譲渡に期限はありますか。
A. 遺産分割が終わるまでであれば、いつでもできます。
相続放棄のような3か月の期限はありません。
3か月を過ぎて相続放棄ができなくなった後でも、相続分の譲渡は可能です。
ただし、その場合も借金の支払義務は残ります。
Q3. 他の相続人に無償で譲渡した場合、贈与税はかかりますか。
A. かかりません。 譲った人の相続分が0になり、譲り受けた人の相続分が増えるだけです。
相続税は、最終的に財産を取得した人が、取得した分について負担します。
一方、相続人以外の第三者へ無償で譲渡した場合は、譲り受けた人に贈与税がかかります。
Q4. 相続人以外に譲渡すると、なぜ負担が大きくなるのですか。
A. 税金が2回登場するためです。
譲った相続人には相続税(いったん相続したものとして)、
譲り受けた第三者には贈与税がかかります。
さらに、第三者は相続税の2割加算の対象にもなり得ます。
贈与税は税率が高いため、相続税より重くなることが珍しくありません。
Q5. 「相続分の放棄」と「相続放棄」は違うのですか。
A. まったく別の制度です。
相続放棄は家庭裁判所への申述が必要で、最初から相続人でなかったことになり、借金の支払義務も消えます。
相続分の放棄は当事者間の意思表示で、相続人の地位は残り、借金の支払義務も残ります。
また、相続放棄では次の順位の人に相続権が移りますが、相続分の放棄では移りません。
Q6. 譲渡した後で、他の相続人が取り戻すことはできますか。
A. 第三者へ譲渡した場合は、できます。
他の相続人は、譲渡があったことを知ってから1か月以内に、
その価額と費用を償還すれば相続分を取り戻せます(民法905条)。
まったく知らない人が遺産分割協議に入ってくるのを防ぐための制度です。
Q7. 相続分の譲渡と代償分割は、どちらがよいですか。
A. 状況によります。
代償分割は、遺産分割協議の中で「この財産を取得する代わりに現金を払う」と決める方法です。
相続分の譲渡は、協議そのものから離脱する方法です。
相続人が多くて協議が進まない場合は譲渡、
分け方はまとまるが金額の調整が必要な場合は代償分割が向いています。
税額も変わりますので、決める前に試算してください。
Q8. 不動産がある場合、登記はどうなりますか。
A. 相続分の譲渡があった場合の相続登記は、通常より複雑になります。
登記の可否や必要書類は事案によって変わります。司法書士にご確認ください。
なお、相続登記は2024年4月から義務化されており、
正当な理由なく3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります。
まとめ
- 相続分の譲渡は、遺産全体に対する取り分を他の人に譲ることです(民法905条)
- 譲渡しても相続人のまま。借金の支払義務は残ります
- 借金から逃れたいなら、相続放棄(3か月以内・家庭裁判所へ申述)です
- 相続分の放棄と相続放棄は別物です。混同しないでください
- 期限は遺産分割が終わるまで。3か月を過ぎた後でもできます
- 税金は「有償か無償か」×「相手が相続人か否か」の4通りで変わります
- 相続人へ無償なら贈与税はかかりません
- 相続人以外へ譲ると、相続税+贈与税+2割加算で負担が大きくなります
- 第三者へ譲渡した場合、他の相続人は1か月以内に取り戻せます
- 必ず書面に残してください。 実印と印鑑証明書が確実です
ご相談のご案内
「もう関わりたくない」というご相談は、少なくありません。
ただし、選ぶ手続きを間違えると、借金だけが残ります。
相続放棄・相続分の譲渡・相続分の放棄は、名前は似ていても中身がまったく違います。
当センターでは、どの手続きが合うかの判断と、税額の試算を行います。
特例が使えるかどうかで結論が変わることがありますので、決める前にご相談ください。
📞 0120-75-1234(9:00〜19:00/平日・土曜・日祝も受付)
💻 24時間WEB相談予約はこちら
監修者
天尾信之(あまお のぶゆき)
税理士(登録番号 第136528号/東京税理士会)
税理士法人Ambitious 代表/新宿相続・生前贈与相談センター
相続・事業承継の相談実績3,000件超。手がけた相続税申告のうち、税務調査に至った割合は1%未満。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」を運営し、
登録者42,000人・累計729万回再生(2026年8月時点)。
※相続放棄の申述、相続分譲渡証書の作成、相続登記は、弁護士・司法書士・行政書士の業務です。
当センターは相続税の試算と申告を担当し、必要に応じて提携する専門家をご紹介します。
出典
- e-Gov 民法(第905条・第915条・第939条)
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 No.4157 相続税額の2割加算
- 国税庁 No.4176 遺産が分割されていないときの申告
- 国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
- 国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
- 国税庁 No.3270 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 裁判所 相続放棄の申述
- 法務省 相続登記の申請義務化
※本記事の内容は2026年9月時点の法令に基づいています。記事中の金額は説明のための例です。

