相続人が海外にいる・海外に財産がある|相続税はどこまでかかるのか
監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。
公開日:2026年9月19日 最終更新日:2026年9月19日
【結論】「海外に住んでいるから関係ない」とはなりません
「息子はアメリカに住んでいるので、相続税はかからないですよね」
そうとは限りません。
相続税がどこまでかかるかは、次の3つで決まります。
- 相続人が日本に住んでいるか
- 相続人に日本国籍があるか
- 過去10年以内に日本に住んでいたか
日本国籍があり、亡くなった日の前10年以内に日本に住所があったなら、
海外に住んでいても、海外の財産まで含めて課税されます。
「海外に移り住めば相続税がかからない」という話を耳にすることがありますが、
10年という長い期間が設けられているため、簡単ではありません。
課税される範囲は2種類です
国税庁は、納税義務者を大きく次のように分けています。
| 区分 | 課税される財産 |
|---|---|
| 無制限納税義務者(居住・非居住) | 国内財産および国外財産にかかわらず、すべて課税対象 |
| 制限納税義務者 | 国内財産のみが課税対象 |
どちらに当たるかで、税額はまったく変わります。
日本に住んでいる相続人
原則として無制限納税義務者です。国内・国外を問わず、すべての財産が課税対象になります。
海外に住んでいる相続人
ここが分かれ道です。
| 状況 | 扱い |
|---|---|
| 日本国籍があり、死亡した日前10年以内に日本国内に住所があった | 無制限納税義務者(国外財産も課税) |
| 日本国籍があるが、10年を超えて日本に住所がない | 制限納税義務者になり得ます |
| 日本国籍がない | 条件によって分かれます |
「日本国籍があり、被相続人の死亡した日前10年以内に日本国内に住所を有したことがある場合」には、
外国の財産も課税対象になります。
駐在や留学で数年海外にいるだけなら、まず無制限納税義務者です。
なお、亡くなった方(被相続人)が日本に住んでいたかどうかも判定に影響します。
組み合わせが複雑なので、該当しそうな場合は必ず個別に確認してください。
手続きで、実際に困ること
税金の計算より、書類のほうが大変です。
海外に住んでいる相続人は、日本の印鑑証明書も住民票も取れません。
代わりになるものを、現地の日本大使館・総領事館で取ります。
| 日本での書類 | 海外での代わり | どこで取るか |
|---|---|---|
| 印鑑証明書 | 署名証明(サイン証明) | 在外公館(大使館・総領事館) |
| 住民票 | 在留証明 | 在外公館 |
署名証明には2つの形式があります
| 形式 | 内容 |
|---|---|
| 貼付型 | 遺産分割協議書などの書類と綴じ合わせて証明するもの |
| 単独型 | 署名だけを単独で証明するもの |
遺産分割協議書には、通常は貼付型が必要です。
つまり、先に協議書を完成させ、それを現地に送り、本人が大使館へ出向いて署名するという流れになります。
ここで時間がかかります。
国によっては大使館が遠く、往復に数週間かかることもあります。
申告期限10か月のうち、2〜3か月はここで消えると考えてください。
国外に財産がある場合
被相続人や相続人が、海外に預金や不動産を持っていることがあります。
| 財産 | 気をつけること |
|---|---|
| 海外の預金 | 銀行によって手続きがまったく違います。日本の戸籍では動かないことも |
| 海外の不動産 | 現地の法律で手続きが決まります(プロベイトが必要な国もあります) |
| 海外の証券口座 | 名義変更に現地の書類が必要です |
| 国外送金の記録 | 税務署は国外送金等調書で把握しています |
評価は「相続開始時の為替レート」で円に直します
外貨建ての財産は、円に換算して申告します。
どの時点のどのレートを使うかには決まりがあるため、自己流で計算しないでください。
二重課税になったら
海外でも相続税に相当する税を課された場合、日本の相続税から控除できる仕組みがあります(外国税額控除)。
現地で納税した証明書が必要になります。
海外の財産は、どう調べるか
まず、手がかりを探すところから始まります。
| 手がかり | どこを見るか |
|---|---|
| 郵便物 | 海外の金融機関からの通知、残高証明 |
| メール・パソコン | ネット銀行・証券会社からの連絡 |
| 確定申告書の控え | 国外所得の記載、外国税額控除の適用 |
| 国外送金の記録 | 通帳に海外への送金があれば、送金先が手がかりになります |
| 国外財産調書の控え | 提出していれば、内容がそのまま分かります |
| パスポート | 渡航先から、資産のある国を推測できます |
海外の金融機関は、日本の戸籍謄本では手続きを受け付けないことがあります。
現地の弁護士や、その国の手続きに詳しい専門家が必要になる場合があります。
国によっては「プロベイト」が必要です
アメリカ、イギリス、香港、シンガポールなどでは、
裁判所が関与する遺産の清算手続き(プロベイト)を経なければ、財産を引き継げません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期間 | 1年以上かかることも珍しくありません |
| 費用 | 現地の弁護士費用がかかります |
| 影響 | 日本の申告期限10か月には、到底間に合いません |
この場合も、日本の申告期限は延びません。
分かっている範囲で申告し、確定後に修正申告や更正の請求で調整することになります。
所得税の手続きも忘れないでください
相続税だけではありません。
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 準確定申告(亡くなった方の所得税) | 相続開始を知った日の翌日から4か月以内 |
| 相続人が非居住者の場合の納税管理人の届出 | 早めに |
海外に賃貸不動産があったなど、国外所得があった場合は準確定申告が必要です。
準確定申告とは?相続開始から4か月以内の手続きと、忘れやすい5つのケース
生前にできる準備
海外が絡む相続は、準備の有無で結果が大きく変わります。
| 準備 | 効果 |
|---|---|
| 財産の一覧を作っておく | 海外の口座・不動産を、相続人が探さずに済みます |
| 遺言書を作っておく | 遺産分割協議そのものが不要になり、署名証明の往復が減ります |
| 国内の財産に組み替えておく | 手続きが格段に簡単になります |
| 納税資金を国内に用意しておく | 海外資産は換金に時間がかかります |
| 相続人の住所・国籍を整理しておく | 納税義務者の区分を、あらかじめ確認できます |
とくに遺言書の効果が大きいのが、海外が絡むケースです。
遺産分割協議が不要になれば、署名証明の取得という最大の時間ロスがなくなります。
税務署は、海外の財産も把握しています
「海外にあるから分からないだろう」は、もう通用しません。
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| 国外送金等調書 | 100万円を超える国外送金・受金は金融機関から税務署に報告されます |
| 国外財産調書 | 居住者(非永住者を除く)で、12月31日時点の国外財産が5,000万円を超える人は、翌年6月30日までに提出する義務があります |
| CRS(共通報告基準) | 各国の税務当局が、非居住者の金融口座情報を自動で交換しています |
CRSにより、海外の銀行口座の情報は日本の税務当局に届いています。
申告漏れが見つかれば、加算税と延滞税がかかります。
隠すのではなく、正しく申告して控除を使うほうが、結果的に負担は軽くなります。
相続人が外国籍の場合
日本国籍がない相続人も、珍しくありません。
- 海外で結婚し、配偶者が外国籍
- お子さんが、生まれた国の国籍を選んだ
- 被相続人自身が外国籍
この場合、課税される範囲は条件によって分かれます。
国籍・住所・在留資格・過去の滞在歴の組み合わせで判定するため、必ず個別に確認してください。
手続きの面でも、次の違いが出ます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 戸籍 | 外国籍の方に日本の戸籍はありません。 出生証明書・婚姻証明書などで身分関係を示します |
| 翻訳 | 外国語の書類には、日本語訳が必要です |
| 署名証明 | 日本の在外公館では、日本国籍でない方の証明は取れません。 現地の公証人(Notary Public)を使います |
書類の準備に、さらに時間がかかります。
申告と納税で、もう1つ必要なもの
相続人全員が海外に住んでいる場合、納税管理人を定める必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何をする人か | 申告書の提出、納税、税務署からの書類の受け取りを代わりに行う人 |
| 誰がなれるか | 日本に住所がある個人または法人(税理士でも、ご親族でも構いません) |
| 手続き | 税務署に届出をします |
納税管理人を決めていないと、申告も納税もできません。
早めに決めておいてください。
日本にある財産の手続きも、止まりがちです
海外にお住まいの相続人がいると、日本国内の手続きも進みにくくなります。
| 手続き | つまずくところ |
|---|---|
| 預貯金の解約 | 金融機関ごとに求める書類が違い、在留証明・署名証明の形式にも指定があります |
| 不動産の名義変更 | 登記には住所を証明する書類が必要。在留証明で代用します |
| 証券口座 | 非居住者は口座を維持できない証券会社があり、先に売却を求められることがあります |
| 遺産分割協議書 | 全員の署名証明を集めるまで、どの手続きも動きません |
すべての起点が遺産分割協議書です。
だからこそ、協議書の完成を最優先にしてください。
郵送の往復も、時間に入れてください
協議書を海外へ送り、署名証明を取って返送してもらうまで、
国によっては1〜2か月かかります。EMSでも1週間以上かかる地域があります。
「郵便で送るだけ」と考えていると、期限を落とします。
期限は延びません
相続人が海外にいても、申告期限は10か月のままです。
そして実際には、次の時間がかかります。
| 工程 | かかる時間のめやす |
|---|---|
| 戸籍の収集 | 1〜2か月 |
| 財産の把握(海外分を含む) | 2〜3か月 |
| 遺産分割協議 | 1〜2か月 |
| 署名証明の取得(往復) | 1〜2か月 |
| 申告書の作成 | 1か月 |
合計すると、10か月はほとんど余裕がありません。
間に合わない場合は、未分割のまま申告し、分割見込書を添えるという方法があります。
未分割のまま申告期限を迎えたら|「3年以内の分割見込書」で特例を残せます
【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】
新宿区は、この論点が出やすい地域です。
| 事情 | 影響 |
|---|---|
| 外国籍の住民が多い | 国籍と住所の組み合わせが複雑になります |
| 転勤・駐在の家庭が多い | お子さんが海外勤務中というケースが目立ちます |
| 留学・海外移住 | 10年ルールの判定が必要になります |
| 地価が高い | 自宅だけで相続税が発生し、納税資金の確保が課題になります |
当センターは、Zoomでのオンライン相談に対応しています。
時差があっても、ご都合のよい時間を調整できます。
相続の相談はオンラインで全国対応|Zoomで完結できること・できないこと
海外にいるご家族と、日本にいるご家族の間に立って進めます。
〒160-0023 東京都新宿区西新宿7丁目19-5 KYS西新宿ビル1階
東京メトロ丸ノ内線「西新宿」駅から徒歩約5分/各線「新宿」駅から徒歩10分
受付時間 9:00〜19:00(土日祝も対応)
よくある質問
Q1. 息子が海外に住んでいます。相続税はかかりますか
かかります。 日本国内の財産には、住んでいる場所にかかわらず相続税がかかります。
さらに、日本国籍があり死亡した日前10年以内に日本に住所があった場合は、国外の財産も課税対象です。
Q2. 海外に移住すれば相続税を避けられますか
簡単ではありません。 日本国籍がある場合、10年という長い期間が設定されています。
相続人と被相続人の両方の状況で判定されるため、安易な移住は勧められません。
Q3. 印鑑証明書が取れません
署名証明(サイン証明)を、現地の日本大使館・総領事館で取得します。
遺産分割協議書には、通常は書類と綴じ合わせる貼付型が必要です。
Q4. 住民票の代わりは何ですか
在留証明です。こちらも在外公館で取得します。
Q5. 海外の財産は、どう評価しますか
相続開始時の為替レートで円に換算して申告します。
使うレートには決まりがあるため、専門家にご確認ください。
Q6. 海外でも相続税を払いました。二重課税になりませんか
外国税額控除により、日本の相続税から控除できる仕組みがあります。
現地で納税したことの証明書が必要です。
Q7. 税務署に海外の財産は分かるのですか
分かります。 国外送金等調書、国外財産調書に加え、CRS(共通報告基準)により
各国の税務当局が非居住者の口座情報を自動で交換しています。
Q8. 相続人全員が海外にいます
納税管理人を定めて税務署に届け出る必要があります。
日本に住所がある個人または法人であれば、税理士でもご親族でも構いません。
まとめ
- 課税の範囲は、日本に住んでいるか・日本国籍か・過去10年以内に日本に住所があったかで決まります
- 無制限納税義務者は国内外すべて、制限納税義務者は国内財産のみが課税対象です
- 日本国籍があり、死亡した日前10年以内に日本に住所があったなら、国外財産も課税されます
- 印鑑証明書の代わりは署名証明(サイン証明)、住民票の代わりは在留証明です
- 遺産分割協議書には、通常は貼付型の署名証明が必要で、往復に時間がかかります
- 国外財産は相続開始時の為替レートで円に換算します
- 二重課税は外国税額控除で調整します
- CRSにより、海外の口座情報は日本の税務当局に届いています
- 相続人全員が海外にいる場合は、納税管理人が必要です
- 申告期限10か月は延びません。 逆算すると余裕はほとんどありません
監修者
天尾 信之(あまお のぶゆき)
税理士/東京税理士会 登録番号 第136528号
税理士法人Ambitious 代表社員
相続・事業承継の相談実績3,000件超。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」(登録者4.2万人)で、相続の実務を発信しています。
出典
- 国税庁タックスアンサー No.4138「相続人が外国に居住しているとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4138.htm
- 国税庁タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- 国税庁タックスアンサー No.7456「国外財産調書の提出義務」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7456.htm
- 国税庁「国外財産調書制度に関するお知らせ」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/kokugai_zaisan/index.htm

