相続土地国庫帰属制度|いらない土地を国に引き取ってもらえるのか

監修:天尾信之(税理士・登録番号 第136528号/税理士法人Ambitious 代表)
相続・事業承継の相談実績3,000件超。YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」運営(登録者4.2万人)。

公開日:2026年9月19日 最終更新日:2026年9月19日


【結論】引き取ってもらえますが、条件は厳しく、お金もかかります

「田舎の土地を相続したが、使う予定も売る当てもない」

こうした土地を国に引き取ってもらう制度が、2023年(令和5年)4月27日から始まりました。
相続土地国庫帰属制度といいます。

期待される方は多いのですが、先に申し上げておきます。

建物が建っていれば、申請の段階で却下されます。
境界が分からない土地も却下されます。
そして、承認されても負担金を納めなければなりません。

「タダで引き取ってくれる制度」ではありません。

それでも、手放す方法がまったくなかった土地に道ができたことは事実です。
使えるかどうかを、順に見ていきます。


誰が申請できるのか

法務省は、こう定めています。

相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した方が申請可能です。

ポイントは3つです。

項目内容
取得の原因相続、または相続人に対する遺贈で取得した土地
買った土地対象外です
施行前の相続対象になります(何十年も前に相続した土地でも申請できます)
共有の土地共有者全員が共同して申請すれば利用できます

「昔相続したまま放置していた土地」も対象という点は、意外と知られていません。


申請しても却下される土地(却下事由)

次に当てはまる土地は、申請しても受け付けられません。

却下される土地補足
建物がある土地解体してからでないと申請できません
担保権や使用収益権が設定されている土地抵当権、地上権、賃借権など
他人の利用が予定されている土地通路など
土壌汚染された土地
境界が明らかでない土地、所有権に争いがある土地

実務でいちばん引っかかるのが、1つ目と5つ目です。

  • 古い実家が建っている → まず解体(費用がかかります)
  • 境界杭がない、隣と揉めている → まず境界を確定(測量費用がかかります)

申請の前に、数百万円の出費が必要になることがあります。


審査で承認されない土地(不承認事由)

申請が受け付けられても、審査で承認されないことがあります。

承認されない土地
一定の勾配・高さのがある土地
管理を阻害する有体物が地上にある土地
除去すべき有体物が地下にある土地
隣接所有者との争訟が必要な土地
その他、通常の管理に過分な費用・労力がかかる土地

「地下に埋まっているもの」には、古い浄化槽、井戸、基礎、廃棄物などが含まれます。
解体しただけでは足りないことがあります。


かかるお金

審査手数料

土地一筆当たり14,000円

申請のときに納めます。 却下・不承認になっても返ってきません。

複数の筆があれば、その分だけかかります。
「一体の土地」に見えても、登記上は3筆というケースはよくあります。

負担金

承認されると、負担金を納めて初めて国庫に帰属します。

法務省は、こう説明しています。

国有地の種目ごとに、その管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額

土地の種類(宅地・田畑・森林など)と面積によって変わります。
金額は法務局の窓口や法務省の資料で確認してください。

負担金を納めなければ、承認されても国庫には帰属しません。
承認の通知が届いてから、決められた期間内に納める必要があります。


申請から引き取りまでの流れ

すぐには終わりません。 おおまかな流れは次のとおりです。

やること
1法務局に事前相談する(対象になりそうか、まず確認します)
2必要書類をそろえ、承認申請をする(審査手数料を納付)
3法務局による書面審査
4法務局職員による実地調査(現地を見に来ます)
5承認または不承認の通知
6承認された場合、負担金を納付
7国庫に帰属

事前相談から始めてください。 いきなり申請しても、却下されれば手数料は戻りません。

申請できる法務局

土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局です。
支局・出張所では受け付けていません。

遠方の土地でも、その土地を管轄する本局に申請します。
事前相談は、お住まいの近くの本局でも受けられる仕組みがあります。

主な必要書類

書類補足
承認申請書法務省の様式
位置・範囲を明らかにする図面公図や測量図をもとに作成します
写真(土地の形状が分かるもの)現地で撮影します
申請者の印鑑証明書
相続したことが分かる書類戸籍など
固定資産税評価証明書など任意の場合もあります

現地の写真が必要なので、遠方の土地であれば一度は行くことになります。


相続放棄との違い

「いらない土地があるなら、相続放棄すればいいのでは」と思われるかもしれません。
まったく別の制度です。

相続土地国庫帰属制度相続放棄
いつまで期限なし(昔の相続でも可)3か月以内
土地だけ手放せるかできますできません(全部放棄)
ほかの財産そのまま相続できます預貯金も自宅も放棄することになります
費用審査手数料+負担金収入印紙800円+郵便切手
建物あると却下関係ありません

いちばんの違いは、「土地だけ」を手放せるかどうかです。

預貯金は相続したいが、地方の山林はいらない。
そういう場合に使えるのが、この制度です。

相続放棄の3か月ルール|期限を過ぎた場合の対処法


使う前に、他の選択肢も比べてください

国庫帰属は、最後の手段と考えてください。

方法向いている場合
売却する買い手が付く土地。安くても売れれば現金が残ります
隣地の所有者に譲る隣の人にとっては価値があることがあります
自治体に寄付する受け付けてもらえることがあります(断られることも多い)
相続放棄するほかに相続したい財産がない場合
国庫帰属を申請する上記がすべて難しい場合

まず「売れないか」を確かめてください。
1円でも売れるなら、手数料と負担金を払うより有利です。

東京の空き家を相続したら|税金・管理・売却の判断


費用を、比べて考えてください

実家が建っている土地を手放す場合、どちらが安いかを計算してみてください。

方法かかるもの
国庫帰属を使う解体費用 + 境界確定の費用 + 審査手数料(一筆14,000円)+ 負担金
建物ごと売る仲介手数料、譲渡所得税(ただし売却代金が入ります
更地にして売る解体費用 + 仲介手数料 + 譲渡所得税(売却代金が入ります
そのまま持ち続ける固定資産税、管理費用、将来の管理責任

売れるなら、売ったほうが有利です。
国庫帰属は、出ていくお金しかありません。

地方では、建物付きのまま安く売れることもあります。
「古い家だから売れない」と決めつける前に、地元の不動産業者に当たってみてください。

そのうえで、どうしても引き受け手がいない土地に使うのが、この制度です。


手放すまでの間も、義務は続きます

申請して承認されるまでには、時間がかかります。

その間も、次の義務は残ります。

続くもの内容
固定資産税国庫に帰属するまで、所有者として課税されます
管理責任倒木や崖崩れで他人に損害が出れば、責任を問われることがあります
相続登記の義務取得を知った日から3年以内に登記しなければ過料の対象

「国に引き取ってもらうつもりだから、登記はしない」は通用しません。
まず相続登記をしてから、申請することになります。

相続登記の義務化|2027年3月31日の期限が近づいています


こんな土地は、まず難しいと考えてください

ご相談でよく出てくる土地を、当てはめてみます。

よくある土地見通し
古い実家が建っているそのままでは却下。 解体してから
山林(境界が不明)境界の確定が必要。 費用と時間がかかります
農地農地法の制約もあります。まず農業委員会に相談を
傾斜地・崖を含む土地不承認の可能性が高い
私道・通路として使われている却下。 他人の利用が予定されている土地です
抵当権が残ったまま却下。 先に抹消が必要です
隣と境界で揉めている却下
平坦な更地で、境界杭もある可能性があります

「使いにくいから引き取ってほしい」という土地ほど、条件から外れやすいという構造になっています。

国が管理を引き受ける制度なので、管理に手のかからない土地しか受け付けない。
制度の趣旨からすれば、当然の設計です。


相続税では、評価が下がるわけではありません

国庫帰属を申請しても、相続税の評価額は変わりません。

相続税は、相続開始の時点の状況で計算します。
その後に手放しても、さかのぼって評価が下がることはありません。

ただし、次の点は押さえておいてください。

  • 地方の土地は倍率地域であることが多く、固定資産税評価額に倍率をかけて評価します
  • 山林・原野は評価額そのものが低く、相続税への影響は小さいことが多いです
  • 問題は税金より、持ち続ける負担です

「相続税が安いから放っておこう」ではなく、「管理の負担をどうするか」で考えてください。


共有の土地では、全員が足並みをそろえる必要があります

共有者全員が共同して申請する必要があります。1人でも反対すれば、申請できません。

ここで問題になるのが、共有者の一部が所在不明というケースです。

状況対応
共有者の1人が反対している申請できません。 話し合うほかありません
共有者の1人が所在不明不在者財産管理人の選任や、所在等不明共有者の持分取得の制度を検討します
共有者の1人が認知症成年後見人の選任が必要になる場合があります

相続で共有になった土地ほど、この制度を使いたくなり、そして使いにくい。
先に共有を解消しておくことが、結局は近道になります。

共有名義の不動産を相続したら|共有のまま放置すると起きること


この制度が向いている人・向いていない人

状況
向いています地方の平坦な更地。境界が明確。買い手も引き取り手もいない
向いていますほかに相続したい財産があり、土地だけを手放したい
向いています何十年も前に相続し、放置していた土地を整理したい
向いていません建物が建っていて、解体費用を出せない
向いていません境界が不明で、測量費用が負担金を上回る
向いていません売れる見込みがある
向いていませんほかに相続したい財産がなく、相続放棄で足りる

この制度を検討する前に、まず「本当に売れないか」を確かめてください。


【新宿区・中野区・世田谷区にお住まいの方へ】

都心にお住まいの方こそ、この制度が関係することがあります。

ご相談で多いのが、次のパターンです。

新宿区の自宅は問題ない。ただ、地方にある実家や山林の扱いに困っている。

親が地方出身で、故郷の土地が残っている。
誰も住まず、売る当てもなく、固定資産税だけ払い続けている。

状況検討すること
建物が残っている解体費用と、国庫帰属の負担金を比べます
境界が不明測量費用がかかります。売却でも同じ費用が必要です
山林・原野まず売却や隣地への譲渡を当たってみてください
相続人が複数共有者全員で申請する必要があります

この判断は、相続税の申告と同時に考えたほうが効率的です。
申告のために資料を集める段階で、土地の状況も分かるからです。

当センターは相続税の申告と生前対策を扱っています。
手続きそのものは司法書士や法務局の窓口になりますが、「どの選択肢が有利か」の整理はお手伝いできます。

〒160-0023 東京都新宿区西新宿7丁目19-5 KYS西新宿ビル1階
東京メトロ丸ノ内線「西新宿」駅から徒歩約5分/各線「新宿」駅から徒歩10分
受付時間 9:00〜19:00(土日祝も対応)


よくある質問

Q1. いつから始まった制度ですか

令和5年(2023年)4月27日からです。

Q2. 昔相続した土地でも申請できますか

できます。 制度が始まる前に相続した土地も対象です。

Q3. 買った土地は対象になりますか

なりません。 相続または相続人に対する遺贈で取得した土地に限られます。

Q4. 建物が建っていますが、申請できますか

そのままでは却下されます。 解体してからの申請になります。解体費用はご自身の負担です。

Q5. いくらかかりますか

審査手数料が土地一筆当たり14,000円、承認後に負担金がかかります。
負担金は土地の種目と面積によって変わるため、法務局でご確認ください。

Q6. 相続放棄とどちらがいいですか

ほかに相続したい財産があるかどうかで決まります。
相続放棄は全部を放棄することになりますが、国庫帰属なら土地だけを手放せます。

Q7. 共有の土地でも使えますか

共有者全員が共同して申請すれば使えます。 1人だけでは申請できません。

Q8. 申請すれば必ず引き取ってもらえますか

いいえ。 却下事由・不承認事由に当たらないことが必要です。
崖がある、地下に埋設物がある、隣地と争いがある、といった土地は認められません。


まとめ

  • 令和5年4月27日に始まった制度です
  • 申請できるのは、相続または相続人に対する遺贈で取得した土地
  • 制度が始まる前に相続した土地でも申請できます
  • 建物があると却下されます。境界が不明でも却下されます
  • 崖・地下の埋設物・隣地との争いがあると、承認されません
  • 審査手数料は土地一筆当たり14,000円、別途負担金が必要です
  • 相続放棄と違い、「土地だけ」を手放せます
  • まず売却・隣地への譲渡を当たってください。最後の手段です
  • 手続き中も、固定資産税と相続登記の義務は続きます

監修者

天尾 信之(あまお のぶゆき)
税理士/東京税理士会 登録番号 第136528号
税理士法人Ambitious 代表社員

相続・事業承継の相談実績3,000件超。
YouTube「まるごと安全相続ch-あまおう税理士」(登録者4.2万人)で、相続の実務を発信しています。


出典

  • 法務省「相続土地国庫帰属制度について」

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html

  • 法務省「相続登記の申請義務化について」

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html


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